私たちの生活に最も身近な税金、それが消費税です。
一般消費者として払っている分には意識しなくても問題ありませんが、副業や個人事業主、独立して事業を営む場合、申告・納税義務は自分にあることを認識する必要があります。
そこで今回は消費税の申告方法のうちの一つ、簡易課税制度について解説していきます。
自動車整備士にとって簡易課税制度は節税のチャンスがある制度となっていますので、是非参考にしてみてください!
消費税申告の概要
簡易課税制度の説明を行う前に、まずは消費税申告の概要について解説していきます。
- 消費税の仕組み
- 消費税を申告・納税しなければならない事業者は?
- 消費税の申告方法は2つ
消費税の仕組み
消費税とは「物を買ったり使ったりした時に発生する税金」となり、私たちの日々の生活の中でもっとも身近な税金です。
物やサービスを受けた際にお店に払っていますが、その消費税はお店の収入になっている訳ではなく、お店側がお客さんの代理人として国に申告・納税しています。
負担者(お客さん)と申告・納税者(お店)が違う税金を間接税と総称しますが、消費税は代表的な間接税のひとつです。
自動車整備士の方々は、個人としては一般消費者であり消費税の負担者でもありますが、副業や個人事業主・法人として働いた場合は、お店側の立場にもなります。
消費税を売上先から受け取ることとなり、申告や納税をしなければならない立場であることを認識しておく必要があります。
なおSeibiiでは、自動車整備士の方々が安心して副業や独立ができるよう、各種勉強会を開催して事業をサポートしています。
消費税についても題材にしていますので、興味がありましたら是非こちらをご確認ください!
消費税を申告・納税しなければならない事業者は?
売上先から消費税を受け取る立場を事業者といいます。
本来であれば、事業者はその受け取った消費税について申告・納税すべきですが、すべての事業者が申告・納税をしなければならない訳ではありません。
消費税を申告・納税すべき事業者を課税事業者、申告・納税しなくていい事業者を免税事業者といいますが、そのどちらとなるかについて判定を行う必要があります。
主な判定基準は以下の通りです。
- 前々年(前々事業年度)の課税売上が1,000万円超の場合
- 課税事業者を選択する届出書を出した場合
課税事業者でないと判定された場合は免税事業者となります。
免税事業者の場合は、たとえ売り先から消費税を受け取っていたとしても消費税を申告・納税する義務はありません。
前々年(前々事業年度)の課税売上が1,000万円超の場合
副業や個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度の売上(税抜金額)が1,000 万円を超えた場合には課税事業者に判定されます。
判定自体は自分で行う必要があり、消費税を申告・納税すべきかどうかは誰も教えてくれませんので、売上が1,000万円付近となった場合は要注意です。
課税事業者を選択する届出書を出した場合
前々年(前々事業年度)の税抜売上が1,000万円以下の場合でも、届出を出すことで課税事業者となりえます。
基本的には免税事業者でいた方が良い場合が多いですが、消費税の還付を受けるためやインボイス制度との絡みなど、自ら課税事業者を選択できる制度が設けられています。
インボイス制度の話につきましてはこちらの
インボイス制度は自動車整備士にも関係がある?働き方別の対応についても解説
令和5年10月から導入されるインボイス制度は、副業・独立問わず多くの自動車整備士の方々が知っておかなければならない制度です。 その概要や申請方法の他、自動車整備士の働き方別に対応方法について解説していきます。
https://seibii.co.jp/blog/contents/mechanic_consumption_tax

消費税の申告方法は2種類
判定の結果、課税事業者となった場合には消費税の申告・納税義務があります。
「一般課税」と「簡易課税制度による申告」という2種類の申告方法からどちらかを選択し、消費税を申告することになります。
自動車整備士の方々にとっては「簡易課税制度」の方法により申告する方が有利な場合が多くなっていますので、参考にしてみてください。
申告方法の2種類について解説していきます。
- 一般課税
- 簡易課税制度
一般課税
消費税の負担者はあくまで一般消費者であるため、事業者は基本的に負担者にはなりません。
自身が支払った消費税は受け取った消費税から控除することができる、というのが消費税の基本的な考え方です。
この考え方を再現しているのが一般課税となり、納税額を「実際に受け取った消費税 - 実際に支払った消費税」という式で計算します。
非常に分かりやすい計算ですが、受け取った消費税と支払った消費税をきっちり管理する必要があり、少し手間がかかる申告方法です。
簡易課税制度
簡易課税制度とは、納税額を「受け取った消費税 - 受け取った消費税 × みなし仕入率」という式で計算する方法です。
受け取った消費税にみなし仕入率をかけて簡便的に控除額を計算しますが、みなし仕入率の区分は「売上に係る仕事がどんな内容か」によって決まってきます。
一覧は以下の通りです。
業種 | 区分 | みなし仕入率 |
---|---|---|
卸売業 | 第一種 | 90% |
主に小売業 | 第二種 | 80% |
主に製造業 | 第三種 | 70% |
主に飲食業 | 第四種 | 60% |
主にサービス業 | 第五種 | 50% |
不動産業 | 第六種 | 40% |
例えば、
コンビニでの小売 →第二種に区分される →みなし仕入率80% →受け取った消費税が100円
の場合、80円分が控除可能、納税額は20円になります。
例えば、
レストランの飲食提供 →第四種に区分される →みなし仕入率60% →受け取った消費税が100円
の場合、60円分が控除可能、納税額は40円になります。
自動車整備士は簡易課税制度がお得!
前述の通り、簡易課税制度とは納税額を「受け取った消費税 ー 受け取った消費税 × みなし仕入率」という式で計算する方法です。
自動車整備士の方々にとっては「簡易課税制度」がお得な申告方法となる可能性が高いため、そのメリットや注意点について解説していきます。
- 自動車整備士が簡易課税制度を選ぶメリット①節税になる可能性大!
- 自動車整備士が簡易課税制度を選ぶメリット②帳簿付けが楽!
簡易課税制度を選ぶメリット①節税になる可能性大!
簡易課税制度では「売上に係る仕事がどんな内容か」によって控除できる金額が決まります。
自動車整備の仕事は主にサービス業となり、サービス業は簡易課税制度上は第五種に区分されますので、控除できる消費税は受け取った消費税の50%ということになります。
実際に払った消費税が受け取った消費税の50%超であれば、通常の申告方法で計算した方が控除できる金額が多くなります。
しかし自動車整備を含むサービス業は原価や経費が少なく、支払った消費税が少なくなりがちなため、簡易課税制度で計算した方がより控除でき、節税できる可能税が高いです。
例えば、
受け取った消費税:100円
実際に支払った消費税:40円
みなし仕入率で計算した消費税:50円
→通常の申告では60円納税(利益も負担も0円)
→簡易課税制度では50円納税(利益10円、負担0円)
簡易課税制度を選ぶメリット②帳簿付けが楽!
簡易課税制度による申告の場合、受け取った消費税にみなし仕入率を掛けることで控除する消費税額を把握します。
仕入や経費など、支払った消費税の情報は申告の際に一切必要としないため、金額の把握も区分分けも必要としません。
事務作業に割く時間がない自動車整備士の方が多いかと思いますので、帳簿付けが楽という点はメリットです。
<一般課税の場合>
受け取った消費税と支払った消費税をひとつひとつ管理します。
例えば、
受:部品を売ったから消費税率10%で800円
支:この会議費は店内飲食だから消費税率10%で100円
支:これも会議費だけどテイクアウトだから軽8%で64円
など、全ての取引の消費税の金額と区分を把握する必要があります。
<簡易課税の場合>
受け取った消費税のみの管理で構いません。
例えば、
受:部品を法人に売ったから、第一種に区分される、800円
受:自社製造の家具を売ったから、第三種に区分される、900円
など、支払った消費税に係る内容は一切把握する必要はありません。
簡易課税制度の注意点
自動車整備士にとってお得になる可能性が高い簡易課税制度ですが、注意点がありますので3つご紹介します。
- 簡易課税制度の注意点①課税売上が5,000万円超の場合は適用できない
- 簡易課税制度の注意点②事前申請が必要
- 簡易課税制度の注意点③2年間は継続適用しなければならない
簡易課税制度の注意点①課税売上が5,000万円超の場合は適用できない
副業や個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度の売上(税抜金額)が5,000万円を超えた場合には簡易課税制度は適用できません。
その場合は一般課税で申告する必要があります。
簡易課税制度の注意点②事前申請が必要
簡易課税制度を適用するためには事前の申請が必要です(一部例外あり)。
例えば2023年分の申告(1月1日-12月31日)から適用しようとした場合には2022年12月31日までに申請書を提出する必要があります。
期限に間に合わなかった場合には一般課税で申告します。
なお適用を辞める際にも届出が必要です。
簡易課税制度の注意点③2年間は継続適用しなければならない
簡易課税制度は2年間継続して適用しなければなりません。
年によっては「大量に工具を購入した」や「車を購入した」などという理由により支払った消費税が多く一般課税で申告した方が控除額が多い年があるかもしれません。
しかしその場合であっても、継続適用期間中であれば一般課税で計算することはできません。
簡易課税制度における自動車整備の業種区分
簡易課税制度では「売上に係る仕事がどんな内容か」によってみなし仕入率が決まり、控除できる金額が決定します。
「売上に係る仕事がどんな内容か」は売上ごとに判定してく必要がありますので、自動車整備における業種区分をご紹介します。
- ドラレコなど備品販売(対事業者):第一種
- ドラレコなど備品販売(対消費者):第二種
- 整備・修理・車検等の代行手数料:第五種
ドラレコなど備品販売(対事業者):第一種
事業者に対するドラレコなどの備品販売は卸売業又は業務用小売業として第一種に区分されます。
みなし仕入率は90%です。
顧客が個人である場合は第二種と混同しがちですが、顧客が事業を行ってる場合(副業や個人事業)は第一種となります。
取付など他の業務と同時に販売する場合、取付作業自体は第五種に区分されます。
区分を明確にしなければ控除金額が計算できませんので、顧客に渡す請求書にはサービスメニューごとに金額を付すようにしてください。
ドラレコなど備品販売(対消費者):第二種
一般消費者に対するドラレコなどの備品販売は小売業として第二種に区分されます。
みなし仕入率は80%です。
第一種の場合と同様、取付など他の区分と同時に販売する場合は請求書を分けて記載ください。
整備・修理・車検等の代行手数料:第五種
整備・修理・車検等の代行手数料など、自動車整備士の業務の多くはサービス業として第五種に区分されます。
みなし仕入率は50%です。
車検については、代行手数料のみ消費税を受け取っています(課税取引)。
自賠責保険や重量税、印紙代については不課税取引として消費税を受け取っていませんので、受け取った消費税の把握、及びみなし仕入率での計算の際には注意が必要です。
【参考】インボイス制度における経過措置
自動車整備の仕事は主にサービス業に該当し、簡易課税制度を適用した方がお得になる可能性が高いことについて解説してきました。
しかしインボイス制度における経過措置として、期間限定ではありますが2割特例という申告方法が発表されましたのでご紹介します。
(参照:2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要)
- 2割特例という経過措置の内容
- 2割特例を適用できる期間
- 自動車整備士はどう申告対応するべき?
2割特例という経過措置の内容
インボイス制度における2割特例とは、受け取った消費税から受け取った消費税分の8割を控除して良いという制度です。
実額控除ではない点から簡易課税制度と混同してしまいがちですが、簡易課税制度とは違い、業種に関係なく8割控除が可能となっています。
みなし仕入率が低い業種にとっては嬉しい特例です。
また簡易課税制度とは違い事前申請が不要となっています。
インボイス制度を機に課税事業者となった者のみ適用可能なため、前々年(前々事業年度)の税抜売上が1,000万円を超えている事業者は適用することはできません。
2割特例を適用できる期間
インボイス制度による2割特例の適用期間は、令和5年10月1日~令和8年9月30日までの日が属する期間です。
副業や個人事業主の場合は令和8年分(R9年3月15日申告期限)まで適用可能となり、それ以降は2割控除は適用できず、一般課税か簡易課税制度を選ぶことになります。
自動車整備士はどう申告対応するべき?
簡易課税制度上、自動車整備業は主に第五種に区分されます。
受け取った消費税から50%が控除できることになり、実額控除の一般課税よりは節税できる可能性が高いものの、80%控除ができる2割特例の方が節税効果が高いです。
上記の適用可能期間中は2割特例を利用した方がいいでしょう。
制度の適用方法としては、消費税の申告書に「2割特例を利用する旨」の記載さえあれば可能となっています。
お使いの会計ソフトでも順次対応されていくはずなので、その指示に従ってください。
なお適用期間が終わった令和9年以降は一般課税か簡易課税制度のどちらかを選択することになります。
その際は簡易課税制度を適用した方がお得になる可能性が高いため、簡易課税制度適用に向け、制度理解を進めておくとよいかと思います。
まとめ
消費税の申告方法には「一般課税」と「簡易課税制度」がありますが、自動車整備士が節税できる可能性が高い方法として「簡易課税制度」について詳しく解説してきました。
簡易課税制度は小規模事業者の事務負担軽減を目的に創設された制度です。
節税のみならず、支払った消費税について管理しなくてよいというメリットもありますので、ぜひこの記事を参考にして制度を活用していって頂ければと思います。
またインボイス制度の経過措置である2割控除についても参考までにご紹介しました。
期間限定とはなりますが、簡易課税制度よりも節税できる可能性が高い制度となっていますので、ご参考頂ければと思います。
(この記事は、2023年3月時点の法令等に基づいて作成されています。)