「会社員は恵まれている」と聞いたことがあるかもしれません。
度々耳にする言葉ですが、会社員が恵まれていると言われる理由の一つに社会保険があります。
社会保険加入は国民の義務ですが、様々な種類があり、会社員と個人事業主が加入できるものは異なっています。
そこで今回は、自動車整備士が個人事業主になった場合の社会保険の概要と、会社員の社会保険との違い、そしてその対応策について解説していきます。
目次
自動車整備士が個人事業主になった場合の社会保険
まずは社会保険の概要について解説していきます。
個人事業主が加入する社会保険は3種類ですが、それぞれ内容についても言及していますのでご参考ください。
- そもそも社会保険とは?
- 独立した場合に加入する社会保険
そもそも社会保険とは?
社会保険とは、ケガや病気などにより生活が困窮してしまうことを防ぐために作られた日本の保険制度です。
条件を満たせば意思を問わず保険料を払う必要がありますが、万が一のリスクにみんなで備えましょうというもので、日本社会全体を支える役割をしています。
社会保険はその備えるリスク別に、以下の5種類から成り立っています。
- 健康保険:主にケガや病気の治療に備える保険
- 介護保険:主に介護が必要になることに備える保険
- 年金保険:主に年齢や病気などで働けなることに備える保険
- 雇用保険:主に失業や雇用の継続に備える保険
- 労災保険:主に業務上のケガや病気の治療に備える保険
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整備士の方々へ
独立した場合に加入する社会保険
前述の通り、社会保険はリスク別に5種類あります。
それぞれカバーする範囲が異なるため「手厚い補償」という意味では全てに加入したいところですが、個人事業主が加入できる保険は以下の3種類です。
保険料を払わなくていいという点では利点ではありますが、雇用保険と労災保険にはそもそも加入することはできません。
3種類について、それぞれ詳しく確認していきます。
なお、以下の3種類は加入必須となります。独立したら必ず手続きするようにしてください。
- 国民健康保険
- 介護保険
- 国民年金保険
国民健康保険
個人事業主として独立した場合、国民健康保険に加入します。
- 保障内容:療養給付、高額療養費、出産一時金、埋葬料など
- 加入先:お住まいの地域の役場
- 保険料:前年の所得に応じて算出、住んでいる地域によって異なる
国民健康保険は、ケガや病気の治療に備えることを主な目的とする保険です。
”病院受診時の自己負担3割”が最も認知度が高い保障かと思いますが、その他にも”医療費の上限を設定している高額療養費”など、その保障は様々です。
保険料は、前年の所得に応じて算出されます。
自動車整備士の年収は400万円ほどと言われていますが、その場合の保険料は年20~30万ほどとなります(年齢、お住まいの地域などの条件によって金額は異なります)。
介護保険
個人事業主として独立した場合、介護保険に加入します。
- 保障内容:要介護・要支援となった場合の居宅サービスや介護予防サービスなど
- 加入先:お住まいの地域の役場
- 保険料:前年の所得に応じて算出、住んでいる地域によって異なる
介護保険は、介護に備えることを目的とする保険です。
要介護又は要支援の認定を受けた方のみ対象となりますが、介護サービスを自己負担率1割程度で受けることができるものとなります。
自動車整備士の年収は400万円ほどと言われていますが、その場合の保険料は年5~10万円ほどです(健康保険と同様、年齢などの条件によって金額は異なります)。
国民年金保険
個人事業主として独立した場合、国民年金保険に加入します。
- 保障内容:老齢による年金給付、障害による年金給付、遺族への年金給付など
- 加入先:お住まいの地域の役場
- 保険料:一律(令和5年度は16,520円、毎年変動)
”65歳以上となった際に貰える年金”のイメージが強いかと思いますが、その他にも”障害を負って働けなくなった際の年金”などもあります。
国民年金保険は、何らかの原因で働けなくなることに備える保険です。
国民年金保険の保険料は、年収に関係なく一律です。
整備工場やディーラーの社会保険との比較
個人事業主が加入できる保険として、国民健康保険、介護保険、国民年金について解説してきました。
個人事業主が加入できる社会保険は会社が提供する社会保険とは大きく異なりますので、保険料と保障内容について、それぞれ比較していきます。
- 会社員と個人事業主の保険料の違い
- 会社員と個人事業主の補償内容の違い
会社員と個人事業主の保険料の違い
整備工場などの会社員として加入する社会保険と、個人事業主として加入する社会保険は、保険料の考え方が異なります。
会社員の社会保険の方が保険料が安く、個人事業主の社会保険の方が保険料が高いため、多くのフリーランスが悲鳴をあげている状況です。
以下の2点について詳しく解説します。
- 全額自己負担のため高い
- 扶養家族という概念がないため高い
全額自己負担のため高い
個人事業主が加入できる社会保険として、国民健康保険・介護保険・国民年金があると解説してきました。
会社員の社会保険として、上記に対応するものは健康保険・介護保険・厚生年金となりますが、会社員の場合、保険料の約半分を会社が負担してくれています。
それぞれにおいて計算根拠が異なるため個人事業主の保険料が2倍、という訳ではありませんが、個人事業主の保険料は全額自己負担のため、高額になっています。
扶養家族という概念がないため高い
配偶者などの家族が一定以下の収入の場合、”扶養家族”と呼ばれ、会社員の社会保険の場合は扶養家族分の保険料は払う必要がありません。
扶養家族が何人いたとしても、1人分の保険料で扶養家族全員のリスクに備えることが可能です。
一方で個人事業主が加入する社会保険には、扶養家族という概念がありません。
計算根拠が異なるため保険料が家族の人数に応じて2倍、3倍となっていく訳ではありませんが、個人事業主の保険料は家族分も払う必要があるため、高額になっています。
会社員と個人事業主の補償内容の違い
整備工場などの会社員として加入する社会保険と、個人事業主として加入する社会保険では、保障内容が大きく異なります。
会社員の社会保険の方が補償内容が充実していて、個人事業主の社会保険の方が補償内容が劣る、という内容です。
以下の3点について詳しく解説します。
- 国民健康保険には出産手当金・傷病手当金がない
- 雇用保険・労災保険に対応する保険がない
- 国民年金は1段階給付のため、受給できる金額が少ない
国民健康保険には出産手当金・傷病手当金がない
会社員が加入できる健康保険と、個人事業主が加入できる国民健康保険。
保障内容についてはそこまで大きな差はありませんが、国民健康保険には出産手当金と傷病手当金がありません。
出産手当金は産休中に給与がない場合に一定額を受け取れる制度となり、期間はおよそ14週間、支給額は給与の2/3相当額となります。
傷病手当金は、病気やケガなどで働けなくなり仕事を休んだ場合に4日目以降から一定額を受け取れる制度となり、期間は受給開始から1年半、支給額は給与の2/3相当額です。
病気やケガなどにより働けなくなることは誰しもが起こりうることのため、特に傷病手当金がないことについては、対策を打っておいた方がよいでしょう。
雇用保険・労災保険に対応する保険がない
個人事業主が加入できる保険は国民健康保険、介護保険、国民年金の3つとなります。
会社員はその他に雇用保険、労災保険に加入できますが、個人事業主はその2つに加入できません。
雇用保険、労災保険がカバーするリスクについて、自前で対策を取る必要があります。
2つの保険の内容については以下の通りです
雇用保険:主に失業や雇用の継続に備える保険
労災保険:主に業務上のケガや病気の治療に備える
個人事業主として独立した自動車整備士にとって、特に重視すべきなのは労災保険がないことです。
労災保険は業務上のケガや病気について、認定を受けられれば自己負担なく病院受診や手当金の給付を受けられる制度となります。
自動車整備士の仕事は、車両の下で作業するなど、一歩間違えれば大事故につながります。
業務中のケガや病気の治療などについて、対策を打っておく必要がありそうです。
国民年金は1段階給付のため、受給できる金額が少ない
会社員が加入する厚生年金は「国民年金+厚生年金」という2階建てで構成されています。
国民年金と厚生年金どちらの保険料も払っている状態となり、受給の際には国民年金額にプラスして厚生年金を受け取ることが可能です。
一方個人事業主が加入できる国民年金は「国民年金」の1階建て部分のみで構成されており、受給の際には国民年金しか受け取ることができません。
国民年金の受給額は、近年の発表では満額で80万円弱/年となっており、毎年変動があります。
「年間で80万円しかもらえないの!?生活できない!」
と思った方も多くいるかと思いますが、個人事業主になった場合は、受け取れる年金額が少ない点についても対策を打っておく必要があります。
自動車整備士が個人事業主になった場合に社会保険料を減らす方法
会社員が加入できる社会保険に比べて、個人事業主が加入できる社会保険は保険料が高いという解説をしていきました。
保険料が高いという点について、主な解決方法を3つご紹介します。
- 国民健康保険組合に加入する
- 健康保険を任意継続をする
- アルバイトをして会社員の社会保険に加入する
国民健康保険組合に加入する
主な解決方法の一つ目としては、国民健康保険組合に加入するというものです。
国民健康保険の保険料が高いというのは全個人事業主共通の悩みとなっており、その対策として作られたのが国民健康保険組合です。
それぞれの業種が集まり、組合を作って運営しています。
国民健康保険は前年の所得に応じて保険料が高くなりますが、国民健康保険組合については、所得問わず固定額であることがほとんどです。
扶養家族という概念はありませんので扶養者分も払う必要がありますが、所得によっては国民健康保険組合の保険料の方が安い、ということがありえます。
ただし、残念ながら自動車整備士が加入できる国民健康保険組合は現時点(令和5年1月)で見つけることができませんでした。
今後組合が発足する可能性もありますので、自動車整備士が加入できる国民健康保険組合がないかどうか、随時チェックしておくことをおすすめします。
健康保険を任意継続をする
主な解決方法の二つ目は、健康保険を任意継続するというものです。
勤め先が整備工場やディーラーなどだった場合、多くの会社は協会けんぽか自動車整備健康保険組合に加入しているかと思います。
健康保険の任意継続とは、会社員だった際に加入していた健康保険に加入し続けるというものです。
注意点としては、
- 退職直後(2週間以内)でないと任意継続手続きはとれないこと
- 退職後2年間しか加入できないこと
- 会社の半分負担はなくなるので、全額自己負担になること
が挙げられますが、扶養家族という概念は残るため、扶養家族の人数によっては安くなる可能性があります。
アルバイトをして、会社員の社会保険に加入する
主な解決方法の三つ目としてご紹介するのは、社会保険を完備しているアルバイト先で働いて、会社員の社会保険に加入するというものです。
社会保険の主な加入条件は、
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 報酬の月額が88,000円以上
- 継続して1年以上雇用見込み
となっているため、フルタイムで働かなくても会社員の社会保険に加入することができます。
会社員の社会保険の場合、会社が約半分負担してくれ、扶養家族分は払う必要はありません。
アルバイトをすることで社会保険料を安く抑えることが可能となります。
自動車整備士が個人事業主になった場合に社会保険の補償を手厚くする方法
会社員が加入できる社会保険に比べて、個人事業主が加入できる社会保険は補償内容が見劣りします。
上記でご紹介した内容は、以下の3点です。
- 出産手当金、傷病手当金がない
- 労災保険、雇用保険に対応する保険がない
- 年金受給額が少ない
主な解決方法を3つ解説していきます。
- 民間の保険に加入する
- アルバイトをして会社員の社会保険に加入する
- iDeCo、小規模企業共済、国民年金基金を開始する
民間の保険に加入する
3つの問題のうちの以下2つへの対策として、民間の保険に加入する方法があります。
- 出産手当金、傷病手当金がない
- 労災保険、雇用保険に対応する保険がない
いまや当たり前になっているネット保険ですが、補償内容がシンプルで分かりやすく、保険料が安いというのが特徴です。
そういった商品を活用すれば、ご自身の家族構成や業務内容から必要と思われる補償内容だけを追加することができますので検討してみてください。
しかし当然ながら保険料として出費が増えることになりますので、必要なものに極力絞ることをおすすめします。
アルバイトをして会社員の社会保険に加入する
ご紹介した問題全てへの対策として、アルバイトをして会社員の社会保険に加入する方法があります。
- 出産手当金、傷病手当金がない
- 労災保険、雇用保険に対応する保険がない
- 年金受給額が少ない
会社員の社会保険に加入する条件は、前述の通りです。
iDeCo、小規模企業共済、国民年金基金を開始する
最後に、以下の点への対策として、iDeCo、小規模企業共済、国民年金基金を開始する方法をご紹介します。
- 年金受給額が少ない
iDeCo、小規模企業共済及び国民年金基金は、それぞれ別ものとはなりますが、全て年金形式での金銭受給を可能としている制度です。
社会保険料とは別に毎月掛け金を払うことで、一定年齢(60歳以降)に達した以降に受け取ることができる年金額を増やすことが可能です。
毎月の掛け金については所得控除として税制優遇もあるため、自動車整備士が独立した際におすすめできる制度です。
一方で貯金とは違い、途中で資金を引き出すことはできない(できたとしても元本割れする)ものであるため、毎月の掛け金については慎重に額を決めていく必要があります。
まとめ
自動車整備士が個人事業主になった場合の社会保険について、概要や会社員の社会保険との違い、その対応策について解説してきました。
確かに会社員の社会保険は個人事業主のものと比べて保険料が安く、補償内容が充実しています。
ですが違いを理解すれば、保険料を安く抑える努力もでき、必要な保障だけを追加していくことも可能です。
本記事が個人事業主を志す、自動車整備士の皆様の助けになったら幸いです。
Seibiiでは副業・個人事業主問わず様々な整備士の方々にご活躍頂いています。
ご興味ありましたら、是非こちらをご確認ください!
整備士の方々へ
(この記事は、2023年1月時点の法令等に基づいて作成されています。)