国家資格である自動車整備士として働く以上「独立してみたいな」と一度は考えたことがある方が多いのではないでしょうか?
- 給与が低くて不満
- 仕事内容を自分で決めたい
など独立したい理由は様々かと思いますが、自動車整備士が独立する場合の独立方法は2種類あります。
個人事業主として独立するか、法人を設立して独立するかの2種類です。
今回の記事では自動車整備士が法人を設立して独立する場合の、3つの形態や個人事業主との違い、そのメリットデメリットについて詳しく解説していきます。
自動車整備士の独立開業の種類
自動車整備士が法人を設立して独立する場合、想定される形態としては以下の3つがあります。
- 整備工場を自社で持ち、自社工場内で整備を行う
- 出張整備士として出張先で整備を行う
- 業務受託整備士として業務委託先で整備を行う
では、それぞれの特徴についてご紹介し、初期投資、営業努力、収入と費用の3点について詳しく解説していきたいと思います。
独立形態 | 初期投資 | 営業努力 | 収入と費用 |
---|---|---|---|
自社工場独立 | 莫大な費用 | 必要 | 収入大・費用大 |
出張整備士独立 | 少額で可能 | 必要 | 収入大・費用小 |
業務委託独立 | 少額で可能 | 不要 | 収入小・費用小 |
※法人設立費についてはどの形態も発生するため、記載は割愛しています。
整備工場を自社で持ち、自社工場内で整備を行う
まずひとつめの「自社で持ち、自社工場内で整備を行う」という形態ですが、分解整備など整備できる範囲も広く、最も収益が見込める方法です。
ですがお分かりの通り、収益が見込める分リスクが高いです。
ハイリスクの要因としては、
- 工場を建てる又は買う際に莫大な初期投資がかかること
- 整備工場の認定上、従業員を必ず雇う必要があること
- 固定費がある分、赤字が続く可能性があること
- 後継者問題が発生すること
などが挙げられますが、リスクが高すぎてこの方法を始めようとする方は少なめです。
この形態で事業をされている方は、相続などにより工場を引き継いだ方が大半かと思います。
それでは整備工場を自社で持った場合の初期投資・営業努力・収入と費用の3点について詳しくみていきたいと思います。
整備工場を自社で持つ場合の初期投資
整備工場を自社で持つ場合、当たり前ですが工場を取得するための費用が必要です。
親などから相続する場合を除き、工場を建てるか、廃工場を買うかを選択することになります。
まずは工場を建てる場合ですが、木造では2,900万円/棟、鉄筋コンクリート造では6億円/棟の費用がかかるという調査が発表されており、その他に土地代や許認可の取得費用など莫大な費用がかかります。
(参照:政府統計の総合窓口(e-Stat)令和3年度の統計 用途別、構造別/建築物の数、床面積、工事費予定額)
一方で廃工場を購入する場合、建物や場所次第では数百万円で購入できるものもあるようですが、築年数が古いものは修繕費がかさむこととなり、大きな出費は免れません。
また工場取得費以外にも設備や工具の費用、必要あれば社用車や代車購入費がかかります。
整備工場を自社で持つ場合、初期費用の負担はかなり大きくなってきます。
整備工場を自社で持つ場合の営業努力
整備工場を自社で持つ場合、基本的に顧客と直接契約を結ぶことになります。
誰かが間に入ってくれる訳ではありませんので、顧客を獲得するための営業努力が必要です。
お客様となる方は個人から法人まで様々ですが、都度営業するという状況にしてしまっては整備に割く時間がなくなってしまいます。
営業をしなくても定期的な整備に繋がる、以下のようなシステムを構築することが大切です。
- 料金をサブスクリプション形式にする
- リピーターとなるようなプランを考える
- 個人は受けず定期的なメンテナンスが必要な法人に絞る
整備工場を自社で持つ場合の収入と費用
整備工場を自社で持つ場合、お客様と直接契約を結ぶことになることは先にお伝えした通りです。
第三者が間に入っている訳ではありませんので、自身で料金を設定することができ、その分努力次第で多くの収入を得ることができます。
もちろん整備内容によって相場があり、合見積もりを取られるなど比較されることがあるかもしれません。
ですが自社でオリジナルのオプションをつけるなど差別化を図り、薄利となることを防ぐことが可能です。
一方、整備工場を自社で持つ場合、費用が多くなりがちです。
費用の大半は固定費となります。
工場の固定資産税、設備のリース料、代車の維持費など、必ず毎月払わなければならない費用があるため、赤字が続かないように収益を計算していく必要があります。
出張整備士として出張先で整備を行う
ふたつめの「出張整備士として出張先で整備を行う」という形態ですが、ローリスクハイリターンな形態となり、営業が得意の方にはおすすめの方法となります。
工場にかかる固定費もなく、従業員を雇う必要もないため、リスクが低く、気軽に始めることができます。
また整備内容は出張先で可能なものに限られますが、顧客への料金設定も自由なため、努力次第で大きく稼ぐことができます。
それでは、出張整備の場合の初期投資、営業努力、収入と費用の3点について詳しくみていきたいと思います。
出張整備の場合の初期投資
出張整備の場合、整備のための場所を自分で確保する必要はありません。
よって初期投資としては、出張整備自体に必要なものを揃えるだけとなります。
整備に必要な工具類を買う、移動用の社有車を買う、などです。
工具類に関しては、整備メニュー拡大と共に徐々に増やしていく方が安全かと思います。
一度にあれもこれもと買わず、最初は必要最低限のものを揃えるといいでしょう。
整備用の社有車に関しては荷台スペースを多く取る必要があります。
内装をいじる必要も初期投資と捉え、予算によって新車か中古車を選ぶと良いかと思います。
出張整備の場合の営業努力
出張整備の場合は工場を持つ場合と同様、基本的にお客様と直接契約を結ぶことになります。
第三者が間に介入する訳ではありませんので、顧客を獲得するための営業努力が必要です。
営業方法としては、ポスティングする、ご自宅や事務所近くの企業に直接営業をかけに行くなどの方法もありますが、最近はマッチングサイトに登録している出張整備の方も多いようです。
インターネット上で気軽にできますので、マッチングサイトの登録は比較的容易かと思いますが、価格競争が激しく、低価格の成約となってしまう傾向が強いです。
整備工場を自社で持つ場合と同様、顧客獲得にはオリジナリティを出し、他社との差別化を計っていく必要がありそうです。
営業は苦手な方は業務受託として働けるSeibiiがおすすめです。
セイビーでは自分が決めた予定の範囲内で仕事があったら、入るシステムとなっているので空き時間を有効に活用できます。
なかなか営業するのが難しい人はお気軽にお問い合わせください!
出張整備の場合の収入と費用
出張整備の場合、整備工場を自社で持つ場合と同様、お客様と直接契約を結びます。
整備にかかる料金を自分で設定できますので、努力次第で収入を多く確保することができます。
また工場にかかる固定費がなく、光熱費や通信費などといった変動費が主なため費用を抑えることが可能です。
独立初期段階においても赤字となることなく、黒字経営ができる可能性が高いです。
業務受託整備士として業務委託先で整備を行う
最後に「業務受託整備士として業務委託先で整備を行う」という形態ですが、ローリスクローリターンな形態とはなりますが、収入が途絶えにくいので、最もはじめやすい独立方法になります。
出張整備と同様、工場にかかる固定費がなく赤字の心配をする必要が少ないです。
お客様と直接契約する訳ではないので整備料金は自分で決められませんが、自分で営業することなく仕事ができる点が利点といえます。
それでは、業務受託の場合の初期投資、営業努力、収入と費用の3点について詳しくみていきたいと思います。
業務受託の場合の初期投資
業務受託の場合、出張整備の場合と同様、初期投資は整備自体に必要なものを揃えるだけとなります。
基本的には必要な工具類を揃える必要があるかと思いますが、業務委託先によっては借りることができる場合がありますので購入前に確認してみるといいでしょう。
業務受託の場合の営業努力
業務受託の場合、お客様と直接契約は結びません。
業務委託先がお客様を開拓し、業務委託者に割り振りしてくれますので、業務受託の場合は営業する必要がありません。
トラブルになった場合も業務委託先が間に入ってくれることが多いので、トラブル対応で煩わしい思いをすることもありません。
「整備の仕事に集中したい」という方には、業務受託はおすすめの独立方法です。
業務受託の場合の収入と費用
業務受託の場合、業務委託先が委託料を決めることになります。
当然ながら整備料から仲介手数料などの費用が差し引かれての入金となりますので、自分で料金を設定するよりも低くなる傾向があります。
移動時間を含めたら時給が最低賃金を下回ってしまった!といったことが無いよう、業務受託内容を吟味する必要があります。
一方、出張整備の場合と同様、固定費がないので費用がほぼかかりません。
整備内容も限られていることが多いので、工具類の出費も抑えられる傾向にあります。
自動車整備士の個人事業主と法人設立の違い
自動車整備士が法人を設立して独立する場合について、3つの形態を見てきましたが、「個人事業主でも同じでは?」「法人設立する必要ある?」と疑問に感じる方もいらっしゃるかと思います。
実際に疑問に感じておられる通り、すべて個人事業主でも可能です。
ですが、自動車整備士として独立する場合において、個人事業主と法人設立には何点か違いがありますので、3つの形態における違いを解説していきます。
整備工場を自社で持つ場合
整備工場を自社で持つ場合の、法人と個人事業主の主な違いを以下2つご紹介します。
- 個人事業主は銀行借入が難しい
- 個人事業主は事業の借金が自分の借金になる
個人事業主は銀行借入が難しい
整備工場を自社で持つ場合、先ほど解説したように莫大な初期投資がかかります。
親などから工場を相続した場合も、修繕費や維持費など工場に関する多額の出費は免れません。
一気に自己資金で賄うことは難しいかと思いますので、借入を検討するかと思いますが、個人事業主では銀行借入が困難です。
法人と異なり、個人事業主は簡単な手続きで開始し、また事業を止めることができるため、社会的に信用性が低いものとなっています。
決して借り入れができない訳ではありませんが、信用保証会社を使わざるえないため無駄に費用がかかる、借り入れ期間が短い、など様々な弊害があります。
個人事業主は事業の借金が自分の借金になる
整備工場を自社で持つ場合、固定費がかさむため、出費が多くなりがちです。
安定して黒字化できていれば良いのですが、赤字が続いてしまった場合、個人事業主は事業費の返済義務を個人で負うことになります。
つまり、個人の借金になります。
法人の場合、借金は法人というビジネス上の人格が負うことになりますので個人は無関係です。
連帯責任を問われることになっても出資分が限度となり、個人が全額負担する必要はありません。
出張整備の場合
出張整備の場合の、法人と個人事業主の主な違いは以下の一つだけです。
- 個人事業主は法人契約が取りづらい
出張整備の場合、先ほど解説した通り、お客様と直接契約を結ぶことになります。
法人と取引をし、定期契約を獲得したいところですが、個人事業主では契約をしてもらえない可能性があります。
法人は設立の際登記が必要ですが、会社を畳む際にも廃業の登記が必要です。
取引先にとっては、突然取引中止になることはないという安心感があります。
またその登記簿は、登記情報提供サービスなどによって誰でもどこからでも閲覧可能なものとなっていますので、法人の対外的な信用力は高いものとなっています。
一方、残念ながら個人事業主の信用力は、決して高いものではありません。
「個人の契約先お断り」という場合、法人契約が取れないこととなります。
業務受託の場合
業務受託の場合の、法人と個人事業主の違いは特にありません。
業務委託先次第ではありますが、法人でも個人でも、どちらでも変わりなく仕事を受託可能な場合が多いです。
Seibiiでは、整備士の方々に業務受託という形で働いて頂いております。
ご活躍されている整備士の多くが副業又は個人事業主となっておりますので、ご興味がある方はこちらをご参照ください。
法人を設立して独立することのメリット・デメリット
自動車整備士の独立開業の種類や個人事業主との違いを見てきましたが、最後に自動車整備士が法人を設立して独立することのメリット・デメリットについて解説していきます。
個人事業主と法人設立のどちらがいいかについては一般的に比較されることですが、その比較が必ずしも自動車整備士の場合に当てはまるとは限りません。
ここでは自動車整備士の場合にフォーカスしてますので、確認してみてください。
法人を設立して独立することのメリット
自動車整備士が法人を設立して独立することの主なメリットは以下の2つです。
それぞれについて簡単に解説していきます。
- 法人設立の方が社会的信用が高い
- 法人設立の方が経費が使える
法人設立の方が社会的信用が高い
個人事業主に比べて、法人設立の方が社会的信用が高いです。
「整備工場を自社で持つ場合」と「出張整備の場合」において既にお話してきたことですが、法人はその存在が登記簿によって確認できます。
名称、住所、設立事業年度や役員の名前などの基本的な情報は網羅されているため社会的に承認された存在として扱われ、取引上優位になることが多くなります。
一方業務受託として働く場合については、個人事業主でも法人と代わりなく業務を受託できる場合が多いので、この点が法人を設立する上でのメリットとはなりません。
法人設立の方が経費が使える
一般的に個人事業主に比べて法人設立の方が経費にできる項目が多いと言われており、それは自動車整備士においても同様となります。
経費にできる項目の例は以下の通りですが、従業員がいたり、事業規模が大きいほどその恩恵を受けることができます。
- 役員報酬や従業員給与
- 社会保険料
- 社宅費
- 30万円未満の固定資産(令和4年) など
しかし一方で、従業員が少なく事業規模が小さい場合、経費にできる項目は少なくなります。
法人設立の方が経費が使えることはメリットですが、その影響度は事業規模によるところが大きいと言えます。
法人を設立して独立することのデメリット
個人事業主と比べて、自動車整備士が法人を設立して独立することのデメリットをご紹介します。
主なメリットは以下の2つです。
- 法人設立の場合、赤字でも税金が発生し、また税率も高い
- 法人設立の場合、慣れない事務作業が多数発生する
法人設立の場合、赤字でも税金が発生し、また税率も高い
法人を設立した場合、赤字の場合でも均等割りという税金がかかります(東京都の場合、7万円/年)。
個人事業主の場合、赤字の場合は税金はかかりません。
また税率ですが、法人税率は15%〜23.2%(令和4年時点)となっており、所得税率の5%〜45%と比べると、最低税率が高くなっています。
収入によっては法人にした方が税金が安くはなりますが、個人が自動車整備士としての独立を検討した場合、収入含め事業規模は小さくなりがちです。
個人事業主にした方が税金は安くなる傾向があります。
慣れない事務作業が多数発生する
法人設立した場合、個人事業主と比べて事務作業が大幅に増えます。
日々の経理作業や税金の申告、社会保険に関する申請など様々ですが、自動車整備士の方々の中で、事務作業が得意!という方は多くないかと思います。
税理士や社会保険労務士などの専門家に依頼するのが一般的ですが、費用がかかるため自社で対応している会社もあります。
また専門家に頼むにしても、ある程度内容を把握しておかなければ、経営管理ができません。
自動車整備士にとって、手続きが多様でデスクワークが多いという点は大きなデメリットであると言えそうです。
まとめ
自動車整備士が法人を設立して独立する場合の、3つの形態や個人事業主との違い、そのメリットデメリットについて解説してきました。
「整備工場の自社で持つ」「出張整備」「業務受託」がありますが、それぞれリターンとリスクに違いがありますので法人設立を検討している場合は参考にして頂ければと思います。
また上記の3つの形態は個人事業主としてでも独立可能です。
自動車整備士が独立する場合は事業規模が小さくなりがちなため、法人設立のメリットを受けづらい傾向があります。
法人設立ではなく、個人事業主としての独立を検討してみてもいいかもしれません。
(この記事は、2022年10月時点の法令等に基づいて作成されています。)