国家資格である自動車整備士の資格を持つ以上「独立して社長になりたい!」と思っている方は少なくないはずです。
副業解禁がますます加速する中、副業→個人事業主→法人設立とステップアップしていきたいと思うのは当然のことかと思います。
個人が法人設立するとなると、法人という括りの中の「会社」を設立することが一般的ですが、会社の設立形態は4種類あります。
そのうち主な設立形態は、株式会社と合同会社の2形態です。
そこで今回は法人設立を目指す自動車整備士向けに、株式会社と合同会社の違いや法人設立の流れについて解説していきます。
法人設立とは?
株式会社と合同会社について解説していく前に、そもそも法人設立とは?について解説していきます。
自動車整備士の皆様が法人を設立しようとした場合に、考えられる3つのルートについてもご紹介していますのでご参照ください。
- そもそも法人を設立することとは
- 自動車整備士が法人設立をする場合の3つのルート
- 個人事業主との一般的な違い
法人の設立について
法人を設立することとは、組織を形成して法務局に登記申請をし、申請の受理によって法人格という新たな人格を世に生み出すことを指します。
難しく感じるかもしれませんが、法人を設立するとはビジネスの主役となりえるコマを作り出すということです。
法人格というものは書面上の人格のため実態はありません。
ですが法人格は法によって権利と義務が認められているため、個人と同様に商売の契約者となれたり銀行口座の名義人となれたりするのです。
法人を一人で運営しようとする場合、個人=法人になってしまいがちですが、法人格は守るべき法律も個人とは全く違う別人格となります。
「自分と会社は別物である、混同してはならない」という意識をもっておくことが重要です。
自動車整備士が法人設立をする場合の3つのルート
自動車整備士が法人を設立しようと思ったときに考えられるルートは3つです。
・ディーラーや整備工場で勤務しながら法人を設立する方法
・ディーラーや整備工場を退職し、法人を設立する方法
・個人事業主から法人成りする方法
会社員が法人を設立をしていけない理由はありません。
副業が認められている会社であれば、ディーラーや整備工場に勤めながら法人を設立することは可能です。
一方で会社を退職して法人設立する場合には、退職直後に設立するか、個人事業主としてのフェーズを挟んでから設立するかの2択になります。
社長になることは誰しもがあこがれることかと思いますが、法人の経営は簡単にはできません。
上記のどのルートでも法人設立は可能ですが、個人事業主として成功してから法人成りする方法が最も確実な方法かと思います。
なおSeibiiでは、副業から個人事業主とステップアップしている整備士の方が多く在籍しています。
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個人事業主から法人成りする際に気を付けるポイント
法人設立する場合、個人事業主の場合と比較して事業を維持する難易度が高めです。
個人事業主から法人成りを検討する上で、事前に注意しておくべきポイントをご紹介します。
- 法人は各種手続きが難しく、自分で対応できないことが多い
- 法人は設立にも維持にも費用がかかる
法人は各種手続きが難しく、自分で対応できないことが多い
個人事業主の場合、仕事の収入=個人の収入となりますが、法人の場合は異なります。
一人社長で一人で法人を経営していたとしても、収入はあくまで法人のものとなりますので、給料を払う際には適切な箇所への届出が必要です。
給料以外にも法人が必要な手続きは多く、税務面、社会保険面、多岐に及びます。
その手続きは個人事業主のものとは比べ物にならない程多く複雑なため、法人の場合は
全ての手続きを一人ですることは困難である、と思っておいた方がいいでしょう。
法人は設立にも維持にも費用がかかる
個人事業主の場合、事業を始める際に必要な手続きはひとつだけ、税務署に開業届を出すだけです。
費用はかかりません。
一方法人を設立する場合、6~24万円ほど費用がかかります。
その費用は外すことができないもの(定款承認や登記)のための費用であるため、節約することはできません。
また法人は維持にもお金がかかります。
事業の収支が赤字であっても毎年必ず7万円以上の税金が発生、その他にも役員登記料、専門家の顧問料など、何かと出費が多くなっています。
売上がない状態でも出費が続くため、止む無く法人を畳むという選択肢になることも少なくありません。
株式会社と合同会社の違い
大変な部分があるとは分かっていても「法人を設立してみたい!」という自動車整備士の方も多いかと思います。
一般的に一個人が設立する法人は、法人という括りの中の「会社」と呼ばれるものです。
会社の設立形態としては4種類(株式会社、合同会社、合資会社、合名会社)あります。
合資会社と合名会社は特徴上の理由から設立する人が少なくなっていますので、自動車整備士の皆さんが設立する可能性が高い株式会社と合同会社について解説していきます。
- 株式会社について
- 合同会社について
- 株式会社と合同会社、どちらを設立すべき?
違い | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
設立費用 | 20~24万円 | 6~10万円 |
意思決定 | 株主総会など | 社員の話し合い |
上場 | できる | できない |
株式会社について
株式会社とは、株式発行による資金調達から事業を遂行する組織であり、最も認知度が高い設立形態です。
自動車整備士の方が法人を設立する場合、最初は社員がいない状態、すなわち社長一人で開始することも多いかと思いますが、一人でも設立することが可能です。
他にも特徴はありますが、今回は以下の3点についてご紹介します。
- (株式会社)設立費用:20~24万円
- (株式会社)意思決定:株主総会など
- (株式会社)上場:できる
(株式会社)設立費用:20~24万円
株式会社の設立には、20~24万円程かかるといわれています。
内訳としては、公証役場での定款認証に際し5~9万円、法務局での設立登記に際し最低15万円となっており、自分で全て対応したとしても必須で発生する費用となります。
(株式会社)意思決定:株主総会など
株式会社を経営していくにあたり、事業を運営する上で重要な事柄については意思決定の場を設けなければなりません。
株式会社の意思決定の場は、株主総会や取締役会となります。
法律上、株主総会開催は会社の義務として定められていますので、年に1回は必ず開催しなければならないものです。
一人で会社を運営する場合「株主=自分、取締役=自分」ということがほとんどで、会議の開催は仰々しく感じられるかもしれませんが、形式的にでも開催が必要です。
また開催に伴って議事録などの文書を作成・保存する必要があります。
(株式会社)上場:できる
上場するとは、会社が発行した株式を証券取引所に取り扱ってもらえる状態のことを指しますが、株式会社は大きくなれば上場することができます。
証券取引所が課す厳しい審査基準をクリアしないといけないためその可能性は高くはありませんが、事業を拡大していくことの一つの目標であることは確かです。
上場することで資金調達が楽になる、取引先からの信用が高くなるなどメリットがあります。
合同会社について
合同会社とは、所属する社員の出資により事業を遂行する組織となります。
2006年に新しく設けられた会社形態のため、認知度は高くはありません。
こちらの形態も、一人で設立することが可能です。
株式会社との比較のため、以下の3点についてご紹介します。
- (合同会社)設立費用:6~10万円
- (合同会社)意思決定:社員の話し合い
- (合同会社)上場:できない
(合同会社)設立費用:6~10万円
合同会社の設立には、6~10万円程かかるといわれています。
株式会社の20~24万円に比べ安いのは、合同会社の場合は公証役場での定款の認証が不要なためです。
また、法務局での登記料が最低6万円と抑えられています。
(合同会社)意思決定:社員の話し合い
合同会社が事業における重要な決定をする場合、社員の話し合いという場を設ける必要があります。
株式会社の場合は株主総会などの開催が義務とされていますが、合同会社の社員の話し合いに関しては、開催回数などの法律上の定めはありません。
社員の話し合いをした場合には、同意書の作成・保存が必要です。
(合同会社)上場:できない
合同会社は株式を発行できません。
よって証券取引所で扱ってもらう株式がないため、上場することができません。
株式会社と合同会社、どちらを設立すべき?
株式会社と合同会社に関して違いをご紹介してきました。
株式会社は設立費用が高く株主総会などの手続きが煩雑という側面はありますが、株式会社自体の認知度が高く上場もできるため、事業をどんどん拡大していきたい方向けの設立形態です。
一方で合同会社は認知度が低く上場はできませんが、設立費用が抑えられ意思決定の手続きが比較的簡単という面があります。
合同会社は、一般的には小規模の会社やスタートアップに適した設立形態です。
(アマゾンの日本法人など、合同会社の形態を選択している大企業もあります。)
自動車整備士の皆さんが法人設立する場合、最初は小規模であることが多いかと思います。
認知度が気にならない場合は合同会社がおすすめですが、株式会社と合同会社にはそれぞれメリットやデメリットがあるため、一概にどちらがいいとは言い切れません。
自動車整備士の皆さんが法人設立する場合、設立に向けたご自身の思いに沿った形で設立して頂ければと思います。
尚、合同会社で設立した場合でも個人事業主の場合と比較的して各種手続きは煩雑です。
合同会社=全ての手続きが簡単ではありませんので、ご注意ください。
設立準備~設立の流れ
法人を設立する場合、手続きの流れは以下となります。
司法書士や行政書士などに頼んだ方がスムーズですが、時間と手間をかければ全て自分で完結させることも可能です。
専門家に頼むか自分で行うかを検討する上で、まずは手続きの流れを把握しましょう。
なお個人事業主から法人成りする場合には、個人事業主であった間に得た資産を法人に譲渡する必要があります。
帳簿価格を決定するなど手続きはより難解になるため、設立の段階から税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
- 設立形態を決定
- 会社印を作成する
- 定款の作成し、認証を受ける
- 資本金の払い込みをする
- 設立登記を行う
- 法人口座を開設し資本金を移動する
- 税金関連の手続きを行う
- 社会保険関連の手続きを行う
設立形態を決定
会社の設立形態としては4種類(株式会社、合同会社、合資会社、合名会社)あります。
合資会社や合名会社はその特徴から設立する人がほぼいない形態のため、株式会社か合同会社のどちらかを選ぶと良いでしょう。
会社印を作成する
設立登記や会社の運営に必要な印を作成します。
法人設立をした場合に必要となる印鑑は以下の通りとなりますので、まとめて作成しておくと便利です。
・会社実印:代表者の名前と社名が入った印。登記や借り入れ時に必要。
・銀行印:社名が入った印。銀行口座を開設する際に必要。
・角印:社名が入った四角い印。領収書や請求書に押印。
・発起人の個人印:定款認証や設立登記に必要。
認証前に市区町村で印鑑登録しておく必要あり。
※発起人とは、会社設立の一連の手続きを担う人です。一人で会社を立ち上げる場合は、ご自身は代表者であり発起人となります。
定款の作成し、認証を受ける
会社のルールを定めているのが定款となります。
会社法によって必要な記載事項が定められているため、インターネットでひな形を探す際には信頼できるサイトを選ぶとよいでしょう。
作成した定款は、会社所在地を管轄する公証役場で認証を受けます。
合同会社の場合は認証は不要ですが、作成は必要となります。
資本金の払い込みをする
設立登記の際、資本金の準備があることを証明する必要があります。
会社の銀行口座は開設前のため、発起人の個人口座に資本金の払い込みを行います。
株式会社と合同会社、どちらも資本金は1円でも構いません。
設立登記を行う
会社の所在地を管轄する法務局で設立登記を行います。
申請書や定款、印鑑届出書など様々な書類を提出する必要があります。
登記申請を行った日が会社設立日です。
法人口座を開設し資本金を移動する
法人口座開設には会社の登記簿謄本や印鑑証明書が必要です。
設立登記が完了すると発行可能となりますので、すみやかに口座を開設して資本金を個人口座から法人口座に移動します。
税金関連の手続きを行う
会社の所在地を管轄する税務署や県税事務所、市役所などの自治体に税金関連の書類を提出する必要があります。
主なものは以下の通りです。
・法人設立届
・青色申告承認申請書
・給与支払事務所等の開設届
・源泉所得税の納期の特例承認申請書
・事前確定届出給与に関する届
社会保険関連の手続きを行う
会社の所在地を管轄する年金事務所やハローワーク、労働基準監督署に社会保険関連の書類を提出する必要があります。
主なものは以下の通りです。
・健康保険年金保険 新規適用届
・労働保険の保険関係成立届
・雇用保険適用事業所設置届
まとめ
法人設立を目指す自動車整備士向けに、株式会社と合同会社の違いや法人設立の流れについて解説してきました。
株式会社は認知度が高く上場もできるため、事業を拡大していきたい方向けの設立形態です。
一方で合同会社は設立費用が抑えられ意思決定の手続きが比較的簡単であるため、一般的には小規模の会社やスタートアップに適した設立形態と言われています。
それぞれにメリットデメリットがありますので、ご自身の意思に沿った設立形態を検討頂ければと思います。
また法人設立の手続きについては専門家に依頼するのが確実ですが、時間と手間をかければ自己完結も可能です。
まずは流れを把握して、手続きの助けにして頂ければ幸いです。
(この記事は、2023年1月時点の法令等に基づいて作成されています。)