Seibiiでは出張でタペットカバーからのオイル漏れ修理を行っています。
クルマのエンジンというのは鉄やアルミで出来た数百の部品で組み付けられており、そのエンジンの内部ではエンジンオイルが循環しています。その為、金属同士だけではオイルの漏れを防げないため、金属と金属の間にゴムを付けることにより、部品の密着を高め、オイルの漏れを防いでいます。
しかし、長くクルマを使用していると、ゴムがエンジンの熱で劣化し、オイルが漏れてきます。
エンジンからのオイル漏れで多いのがタペットカバー、オイルパン、センサー取付部などです。
特にエンジン上部からのタペットカバーオイル漏れは高温のエキゾーストパイプに付着しやすく、火災の危険性も有るため、早めの修理を行う必要があります。
今回はタペットカバーの役割や名前の由来、実際の修理の様子をご紹介します。
目次
タペットカバーの基礎知識
1.名称
「タペット」とはエンジンの内部にある部品の名称で、その「タペット」の「カバー」であるため「タペットカバー」と言います。
最近のエンジンでは、タペットという部品がない場合もあり、他の名称で呼ぶことがありますが、指している部品は同じものになります。「シリンダーヘッドカバー」と言ったり、「エンジンヘッドカバー」と言ったりしますが、基本的には同じ部品となります。
2.役割
タペットカバー自体に大きな役割はありません。強いて役割を言うならば、エンジンオイルが飛び散らないように蓋をしているということでしょうか。
エンジンの構成は下図の通りです。「シリンダーヘッド」と「シリンダーブロック」の2つがエンジンの主要部品です。そのシリンダーヘッドの上に被さっているのが、「タペットカバー」になります。
PCVバルブ:ブローバイガスの排出がポイント!
タペットカバーの役割は、ただのカバーですが、そのカバーにはバルブが付いています。そのバルブの名前を「PCVバルブ」と言います。
エンジンは、混合気を吸入して圧縮を行っていますが、圧縮したガスは、ピストンの間からエンジン内部に漏れ出てしまいます。すると、漏れ出たガスによってエンジン内部全体の圧力が上昇し、それが不要な抵抗となって、エンジンの効率が低下します。この漏れ出たガスのことを「ブローバイガス」といいます。
そして、このブローバイガスを逃す役目を行っているのが「PCVバルブ」です。
PCVバルブは、タペットカバーに付いており、圧力の変化に応じてバルブからブローバイガスを逃します。
そうして、エンジン内部の圧力を一定に保っています。
3.タペットとは
タペットとはエンジン内部にある部品です。
エンジンのシリンダー内に空気を入れるバルブがあり、そのバルブの開閉を行っているのがカムシャフトです。カムシャフトは楕円形の山が回転することで、山を通過する時にバルブを押し、バルブが開く構造となっています。
そのバルブとカムシャフトの間に挟まっているのが、タペットとなります。
このタペットによってバルブとカムシャフトの隙間を調整しています。
この隙間が実はとても重要で、メカニックは「0.01mm単位」で調整します。
隙間が大きいとバルブが開く時間が短くなるので、沢山の空気をエンジンに取り込むことが出来ません。次に隙間が小さいと、エンジンの熱で金属が膨張した時に、バルブが常に開きっぱなしになってしまい、混合気の圧縮ができなくなります。
タペット音
エンジン熱で部品が膨張し、このバルブとカムシャフトの隙間が大きくなったり小さくなったりします。この隙間が小さいとずっとバルブを押している状態になってしまい、逆に、隙間が大きいとカムシャフトがタペットを叩いてしまい打音が発生します。この打音をタペット音と言います。エンジンが冷えている時に、エンジンからガチガチ音が発生し、エンジンが温まるとこの音が消えるのは、このタペット音が原因となっています。エンジンが温まった時に隙間が小さくなるので打音の発生がなくなるという訳です。
4.タペット調整
タペットの調整には3つの方式があります。
- ラッシュアジャスター式(自動調整式)
- シム式
- アジャストスクリュー式
タペット調整1.ラッシュアジャスター式(自動調整式)
重要なタペットの隙間の調整ですが、現在のクルマの殆どは自動で調整するようになっています。ラッシュアジャスター式はエンジンが冷えているときも、温まったときも、一定の隙間になるようになっています。
タペット調整2.シム式
シム式は、シムと呼ばれる薄い板がタペットに入っており、このシムの厚さを変えることで調整を行います。
タペット調整3.アジャストスクリュー式
アジャストスクリュー式は、タペットに付いたネジを調整することで隙間を調整する方式です。
古い車両はこのアジャストスクリュー式が多く、季節ごとに調整を行うなんてこともあります。
タペットを調整するためにはエンジンに付いたカバーを取り外さなければ調整出来きません。そして、この取り外すカバーがタペットカバーとなります。
タペットカバーオイル漏れの原因(パッキン劣化とPCVバルブ詰まり)
原因2つ
タペットカバーよりオイルが漏れる原因としては2つ考えられます。
1つは「パッキンの劣化によるオイル漏れ」、もう一つは「PCVバルブの詰まりによる内部圧力の上昇」です。
原因1.パッキンの劣化
多くのタペットカバーからのオイル漏れは、タペットカバーとシリンダーヘッドの間に入っているパッキンの劣化によって起こります。
一昔前のタペットカバーはコルクのパッキンの使用も行っていましたが、現在のパッキンはゴムで出来ており、長期間使用しているとエンジンの熱によってゴムが劣化します。劣化したパッキンよりエンジンオイルが漏れてくる事となります。
原因2.PCVバルブの詰まり
PCVバルブとその役割については、上記で説明しました。タペットカバーの上部に付いているPCVバルブは、圧力の変化に応じてバルブからブローバイガスを逃がすことが重要な役割です。
このPVバルブが詰まってしまうと圧力を逃がすことができなくなり、エンジン内部の圧力が上昇してしまいます。そうすると、上昇した圧力によってパッキンの隙間からオイルが漏れてきてしまうのです。
タペットカバーオイル漏れ修理作業手順 - トヨタスープラ
それでは実際のタペットカバーのオイル漏れ修理をご紹介します。
今回修理する車両は、「トヨタのスープラ(JZA80)」です。名車ですね!
スープラ(JZA80)が最初に発売されたのが1993年ですから、もうすぐで20年立ちます。しかし、スープラに詰まれている「JZエンジン」、きちんとメンテナンスすれば長く乗れる素晴らしいエンジンです。
ただし、弱点もあり、そのうちの一つがタペットカバーからのオイル漏れになります。
ステップ1.スロットルボデーASSY取り外し
まずは写真の赤丸をつけた、スロットルボデーASSYを取り外します。
スロットルワイヤーを取り外し、コネクター、バキュームホースを取り外します。
上記とは別に写真には映っていないスロットルボデーの裏側に冷却水のホースがあります。このウォーターバイパスホースを取り外すと冷却水が出てきますので、ホースの穴を塞いで冷却水が出ないようにします。
その後エアクリーナーのホースバンドを緩め、取り外します。
次に本体を取り外します。写真の赤丸の3箇所とその奥も同様にボルト・ナットで留まっているので、取り外します。
エアクリーナーホースを外したその下側に、スロットルボデーASSY本体を留めているブラケットがあるので取り外し、スロットルボデーASSYを取り外します。
ステップ2.カバー取り外し
次にスパークプラグの上に付いているカバーを取り外します。
ヘキサゴンレンチを使用しボルトを外します。
カバーを外すとカムシャフトプーリーが丸見えとなります。
このプーリーの隙間にボルトを落とすと、ボルトを取る為に無駄な手間がかかる為、ウエスを被せて防ぎます。
ステップ3. タペットカバー取り外し
タペットカバーを留めている10mmのボルトを外し、カバー本体を取り外します。
カバーを取り外すとカムシャフトが現れます。エンジンの内部はなかなか見る機会がなく、今回のスープラのオーナー様も興味深そうに自分のクルマのエンジン内部を覗いていました。
こんな事が出来るのも出張整備ならではですね!
車によりますが、タペットカバーがインレットとエキゾースト側で別れている場合があります。今回のスープラもタペットカバーが2つに分かれてあり、2つ取り外しを行いました。
カバーの裏側は下の写真の様になっています。
タペットカバーの裏側に溝があり、その溝にパッキンがはまるようになっています。ですので、違う車種のパッキンを取り付けることは出来ません。
また、タペットカバーの取付の際、逆さまにした時にパッキンが外れてしまうこともあるので、しっかりと溝にはめ込みます。
ステップ4. PCVバルブ交換
PCVバルブは、赤い丸を付けた部品です。
PCVバルブはタペットカバー本体に嵌っているだけですが、手で外すのは厳しいので、クリップリムーバーなど使用し取り外します。
そして、PCVバルブと一緒に嵌っているゴムも劣化しているので取り外します。この時、ゴムのカスがタペットカバーの内部に入ってしまうと取れなくなってしまうので、気を付けて取り外します。
ステップ5. タペットカバー取付け
取り外しとは逆の手順で取り付けていきます。
エンジンによっては、タペットカバーを取り付ける時に、液体ガスケットを指定された場所に塗布する場合があります。この作業を怠るとオイルが漏れてしまう可能性があるので、修理書をよく読み作業を行います。
今回のスープラもタペットカバーを取り付ける前に液体ガスケットを指定された場所に塗布しています。
後は取り外した要領と逆の手順で取付を行います。
まとめ
エンジンや車種によってタペットカバーの交換要領は変わってきます。簡単に取り外すことが出来る場合もあれば、今回のスープラのように、タペットカバーを取り外す時に、付随する部品を取り外す場合もあります。また、タペットカバーを取り付ける際に、ボルトを均等に締め付けなければなりません。均等に締め付けが行われないと、タペットカバーのボルトが緩んでしまったり、パッキンがしっかり密着せずにオイル漏れの原因となってしまいます。
しっかりとプロのメカニックに修理を頼むが良いでしょう!