こんにちは、seibiiメカニックの野仲です。
テスラモデル3が日本に上陸しました。
モデル3については、「テクノロジー」の事や「走りのフィーリング」「インテリアの質感」などは紹介されてますが、整備士の目線から見たテスラの紹介は殆ど見られません。
そこで、この記事では「テスラの冷却システム」についてご紹介します!
EV車の冷却システムなんて大したこと無いと思ってるかもしれません。もちろん、エンジン車に比べて発熱量は少ないので相対的な重要度は下がるかもしれません。
しかし、テスラの従来とは違う冷却システムを知ることで、開発者の設計思想に触れることができると思います。
冷却システムからテスラの哲学を垣間見てみましょう!
冷却システム全体図(水冷式 vs 空冷式)
テスラモデル3の冷却システムでは、冷却水がEVバッテリーとドライブユニットを冷却します。一方、日産のリーフのEVバッテリーは空冷式を採用しています。
水冷式と空冷式の違い
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冷却水(テスラ):液体を使用する分、メンテナンスの手間は増えます。但し、EVバッテリーの温度をコントロールできる為、最適なEVバッテリーの使用環境を作り出すことができます。
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空冷式(日産リーフ):走行時にしか冷却が行えません。従い、外部の環境によっても冷却パフォーマンスが変わってきます。
以下は、テスラモデル3の冷却系統のシステム図となります。
- 赤いライン : 冷却水のライン
- 緑のライン : エアコンガスのライン
(引用元MUNRO)
少し分かりずらいのは以下の部品名称になるかと思います。
- CR:クーラントリザーバー/スーパーボトル(リザーブタンク)
- Chiller:チラー
- Evaporator:エバポレーター
- High Voltage Battery:EVバッテリー
- Inv/Conv.:インバーター/コンバーター
- HEX:ヒートエクスチェンジャー
CRとチラーは後ほど説明します。
ヒートエクスチェンジャー(HEX)はリヤのドライブユニットに付いており、ドライブユニット内のオイルを冷却します。
Teslaの特徴 : クーラントリザーバーとスーパーボトル
モデル3の冷却システムが他とクルマの冷却システムと違うところは、このリザーブタンクです。
モデル3ではリザーブタンクにウォーターポンプが付いており、そこから、冷却水を循環させるようになっています。
当然ながら、エンジンは付いていないので、エンジンの駆動力でウォーターポンプを駆動することはありません。しかし、リザーブタンクにポンプが付いているのは、やはり新鮮な気がします(ウォッシャータンクと一緒ですねw)
そして、このクーラントリザーバーは、テスラではスーパーボトルという部品名となっています。
リザーバータンクにもきちんと書いてあります。
(引用元JALOPNIK)
構成
このスーパーボトルは以下の部品から構成されています。
- リザーブタンク
- ウォーターポンプ×2
- チラー
- 切り替えバルブ
(引用元JALOPNIK)
「チラー」と「切り替えバブル」の役割
各部品の役割で見慣れないのが、チラーと切り替えバルブでしょう。
「チラー」の役割
チラーはACガスで冷却水を冷却する部品となります。
温まって戻ってきた冷却水はラジエーターとこのチラーによって冷却されます。
先ほどのシステム図を見ると、圧縮した冷媒がチラーを通った後には低温低圧の冷媒となっています。このことから、チラー内部はエバポレーターと似たような役割をしている考えられます。
低温高圧の冷媒が膨張するときに、冷却水の熱を奪いながら膨張するのですね。そうやってLLCを冷却していきます。
そして、このACの冷媒を利用して冷却された冷却水はEVバッテリーに送られ、EVバッテリーを冷却します。
そして、低温低圧となった冷媒はACポンプへと送られるわけです。
(引用元MUNRO)
冷却時の作動
(引用元MUNRO)
上の図を見ると、チラーの冷却系統とラジエーターの冷却系統が分かれていることが分かります。
チラーで冷却した冷却水はEVバッテリーへと送られ、ラジエーターで冷却された冷却水は後ろのマネジメントモジュールからドライブユニットへと送られています。
この2系統の冷却ラインを1つに統合しているのがスーパーボトルという事になります。
しかし、適切な温度でEVバッテリーを使用するには冷やすだけではなく、温める必要もあります。
そこで、スーパーボトルの構成部品の1つである切り替えバルブが利用されます。
「切り替えバルブ」の役割
切り替えバルブは電気モーターによって水路の切り替えを行います。
EVバッテリーを温める必要があるときに作動し、ドライブユニットで温められたLLCをEVバッテリーへと送り温めます。
先ほどの冷却時のチラーの役目は暖かい冷却水を冷やし、冷えた冷却水をEVバッテリーに送ることでした。
しかし、今度はリヤのドライブユニットから送られてきた暖かい冷却水をそのままEVバッテリーへと送っています。
暖気時の作動
(引用元MUNRO)
そして、冷却されたLLCは後輪のマネジメントモジュールへと送られ、冷却に利用されます。
切り替えバルブは、ECUからの情報を元に、モーターでこの水路を切り替えています。
テスラ・モデル3の冷却システムまとめ
このモデル3の冷却システムはシンプルでありながら無駄のない設計となっているのに少々驚きます。
例えば、プリウスなどのハイブリッド車では冷却系統はエンジンとハイブリッドで分かれています。
システムが複雑になれば重量は増加し、故障のリスクも増えるわけです。
このモデル3の冷却システムは別々の2系統の冷却システムをスーパーボトルで統合し、ECUからの信号で切り替えバルブを作動させるだけとなっています。
スーパーボトルを使用したこのシステムは、シンプルで素晴らしいと思います。
(引用元MUNRO)
(番外編) Mr.スーパーボトル
閑話休題。
モデル3の冷却システムはスーパーボトルで管理されているのは理解しました。
なんとこの、スーパーボトル、実は本体に謎のヒーローが描かれているそうです。
それが、このMr.スーパーボトル!
(引用元JALOPNIK)
胸にはテスラのマークが入っていますww
なぜ、このスーパーヒーローが掛かれているのかは謎ですが、開発チームの遊び心ではないでしょうか?
好きです、こーゆーの!
もし、スーパーボトルを交換する機会があったら、ぜひ見たいと思います!
冷却水メンテナンス
LLCの種類
モデル3のLLCはEU規格のクーラントG-48の使用が指定されています。
これはメルセデスの一部車種やBMW、ボルボに使用されているLLCとなります。
このG-48という規格のLLCは亜硝酸塩、アミン、リン酸塩、ケイ酸塩が含まれておらず、アルミニウムやガスケット、ホース類への攻撃性が少ないのが特徴です。
交換時期
モデル3の冷却水の交換は4年毎、もしくは80,000Kmのどちらか早い方となります。
交換方法
冷却水の交換方法を調べたのですが、そのやり方を見つけることは出来ませんでした。
重要なのはエア抜きの方法ですが、そこまでを紹介している記述はありませんでした。
恐らくですが、複雑な冷却系統ではない為、冷却水を入れてIGOnでウォーターポンプを作動して、エアを抜く方法だと思います。
スーパーボトルの取り付け位置がラジエーターよりも高い位置にあるならば、上記の方法でほぼ冷却水のエアは抜けると思いますが、ラジエーターよりもスーパーボトルが低い位置にある場合、どこかにあるブリーダープラグを緩めエア抜きを行うかもしれません。
また、後ろまで冷却水を回すため、リヤのドライブユニット付近にもブリーダープラグがあり、そこからエア抜きを行う可能性があります。
冷却水の正しい交換方法が確認でき次第、これから掲載したいと思います!