こんにちは、Seibiiチーフメカニックの杉村です。
Seibiiの出張整備事業で整備カーとして使用している愛車スズキ・エブリイのクラッチ交換を行いました。良い機会なので、クラッチの機能と役割、構造、交換の合図、交換方法について解説します!
※クラッチ交換は分解整備に該当しますが、自動車の使用車本人が分解整備を行う場合には、法律上の制限には該当しません。今回は、私名義の私作業であることを明記させて頂きます。
目次
クラッチ - 機能と役割
マニュアル車の部品
「クラッチ」とは、マニュアル(MT)車にのみ装備されている部品です。近年普及しているクルマは殆どオートマ(AT)車ですので、関係ある方は少ないのが実情です。
教習所で聞いたことある....?
買う・乗る車はオートマ(AT)車でも、免許は「マニュアル」で取得される方多いですよね。その際に、習得に苦労する「半クラ」。その「クラ」が「クラッチ」です。
エンジン動力を車輪に伝える伝達装置
クラッチは、マニュアル車のエンジンとトランスミッションの間に入っています。主に、エンジンからの動力をトランスミッションを経由して車輪に伝えたり、シフト・ギア・車速を変える際に動力を一時的に遮断する部品で「動力伝達装置」とも呼ばれます。
AT車の場合、クラッチペダルは存在しないものの、クラッチと同じ役割を果たす「トルクコンバーター」という部品が装備されています。
クラッチを踏むタイミングを思い出してください。「ギア・シフトを変える時」ですね。
停止状態のマニュアル車でクラッチを踏んだままギアを1速に入れ、アクセルペダルを踏むとエンジンの回転数が上がりますが、タイヤは動きません。これは、エンジンの動力がミッションへ伝わらないようにクラッチが遮断している為です。
この状態でクラッチを一気に離すと、エンジンの回転数(高)に対してタイヤの回転数0となり回転差が大きすぎる為、安全の為「エンスト」させる仕組みになっています。
ここでクラッチ(半クラッチ)を使い徐々にエンジンの回転数をタイヤに伝えることによりエンジン側とタイヤ(ミッション)側の回転数を同調させます。これによりエンジンからの動力がミッション、タイヤへ伝わり車が動くと言うことです。
つまりは回転数の調整を担う部品と言うことですね。
クラッチの構造
クラッチは主にエンジン側から以下3つの円盤状の部品で構成されています。
- フライホイール
- クラッチディスク(クラッチプレート)
- クラッチカバー
フライホイールはエンジンと直接繋がっており、クラッチカバーのダイヤフラムスプリングでクラッチディスクを動かし動力の伝達を行います。
この3つの部品で「ひとまとめ」と言っても良いかもしれません。
画像引用元:Active Traction Service
ちなみに、ダイヤフラムスプリングを直接動かしている部品をレリーズベアリングと言い、一般的にクラッチ交換をする際には、クラッチディスク、クラッチカバー、レリーズベアリングの3つを変える事が多いです。
クラッチは消耗品 - 寿命と交換タイミング
クラッチは、エンジンとミッションの間を物理的に繋いでいます。それらが接続・回転することで動力を伝えていますから、使用に応じて摩耗・消耗していきます。つまりクラッチは消耗品で交換が必要な部品です。
クラッチ滑りは交換の合図
クラッチ(摩擦材)の摩耗が進むと、アクセル(エンジンの回転数)とスピード(タイヤ回転)が一致しなくなっていきます。アクセルを踏み込んでいるのに、いつもよりスピードが出てこない、などの症状です。これを「クラッチが滑る」と言ったりします。
これは、クラッチの交換時期が訪れた合図です。
乗り方によって変わる寿命
「半クラッチ(「クラッチを滑らせる」とも言います)」が最もクラッチを消耗させる動作です。エンジンの回転数とタイヤの回転数に差が生まれる時に「半クラッチ」を使用して、徐々に回転スピードを合わせていくので、クラッチに物理的な負荷が掛かるのです。
ところで半クラッチは「上手な方」と「苦手な方」がいますね。動作が苦手でスムースにシフトチェンジをできない、スピード加減速が多い運転をする為、半クラッチを多用する。このような差により、ドライバーによってクラッチの消耗スピードが異なってきます。
早い人だと2-30,000km、遅い人だと100,000kmで交換が必要となります。
クラッチがダメになる原因
クラッチがダメになる原因としては、クラッチの摩耗や破損があります。
クラッチが摩耗する原因には、「半クラッチ」があります。
発進時などに半クラッチ状態でアクセルを過剰に踏んでエンジンを吹かすことが摩耗に繋がります。
半クラッチとアクセルを踏む時間が長くなっていないかを確認しましょう。
また、走行中のシフトチェンジの場面で、ギアを繋ぐ際のエンジンの回転数が合っていないこともクラッチへの負担になります。
クラッチが破損する原因には、半クラッチ操作が十分に行われていないことにあります。
半クラッチをせずにクラッチを一気に繋いだり、エンジンの回転数が高いままギアを繋いだりする操作を多用していると、破損の原因になるので注意しましょう。
MT車で半クラッチが必要な理由
半クラッチはMT車のエンストを防止したり、坂道や駐車時に「なめらかな移動」をしたりするのに役立ちます。
一気にクラッチにつなぐと、部品の摩耗が生じやすいだけでなくショックの表示やエンストを起こし、寿命が短くなることもあるため注意が必要です。
半クラッチでも長持ちさせるコツ
部品や車体の寿命を長持ちさせるために半クラッチを上手に使う3つのコツを紹介します。
・発進時のクラッチペダルは「ゆっくり」離す
・発進時にアクセルペダルを一定にする
・エンジンの回転数は2,000回転以内を目安にする
MT車のクラッチには、遊びの要素がありペダルを踏んでもしばらくは何も起こらないように設計されています。
遊びを知らずに焦ってクラッチペダルを急に離すとエンストの原因となるため、必ず「ゆっくり」離すようにしてください。
また、アクセルペダルを細かく動かすとクラッチ板の損傷につながる危険性があるため、踏む強さをできるだけ一定にするのが望ましいです。
回転数に厳密な決まりはないですが、クラッチへの負担や燃費の効率を考えると1,500から
2,000回転以内が理想です。
クラッチ交換費用の目安
車種 | 交換費用相場 | おすすめ交換場所 |
---|---|---|
軽自動車 | 5~8万円 | 自動車整備工場 |
国産車 | 5~20万円 | 大手販売店 |
輸入車 | 15万円~ | 購入したディーラー |
クラッチの交換は販売店や自動車整備工場で依頼できます。
輸入MT車の場合、町の整備工場や他社の販売店舗では交換できない場合があるため、購入した店舗・担当ディーラーへ依頼するのがおすすめです。
自分でクラッチ交換もできなくはないですが、専門知識が必要な作業があるためプロに任せるようにしましょう。
クラッチの交換手順
リフトは自宅にありません!ので、ジャッキ&ウマで作業です。順番に解説していきます。
ステップ1. バッテリーのマイナス端子を外す
作業の安全の為、最初にバッテリーの「マイナス端子」を外します。「プラス」ではなく「マイナス」です。これはバッテリー交換の場合や、バッテリーが上がってしまいジャンピングスタートする場合も一緒で、作業中にショートを起こさない為です。(詳しくは
【DIY】自分で交換できる!正しい車のバッテリー交換の方法
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クルマのバッテリーが上がった! その原因と復旧方法
油断すると発生するクルマのバッテリー上がり。ここではバッテリー上がりが発生する原因 やカーバッテリーの役割と充放電の仕組みなどについて解説していきます。バッテリー上がりの直し方やバッテリー上がり後の対応についても説明しています。
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車のボディはマイナス
車は、バッテリーと接続されると、ボディの金属部分はマイナスになっています。誤ってプラス端子から取り外そうとして、そのねじを緩めている工具等が車の金属に触れた瞬間にショートしてしまいます。実際、素人のこのミスは多いのですが、バッテリーを取り外す際には「マイナス端子から」が鉄則です。
ステップ2. ジャッキアップ
4輪全てジャッキアップしてウマをかけます。
ステップ3. ミッションと周辺部品取り外し
さて、それではミッションの周りに付いている以下の部品を外し、ミッションの周りを何もついていない状態にします。
- シフトワイヤー×2
- スターター
- コネクター×2
- クラッチワイヤー
- カバー
ステップ4. ミッション切り離し
次にプロペラシャフトをマーキングしてミッションから切り離します。
プロペラシャフトを抜いた時にミッションオイルが垂れてくるので、オイルがこぼれても良いようにウエスを巻きます。
また、プロペラシャフトのミッションに刺さっているシャフトにキズが付かないようにこちらにもウエスを巻き保護します。
軽自動車で縦置きなのでかなり作業がしやすいですね(笑)
ミッションとエンジンを止めているボルト2本とナット2つを外します。
これらを外したら、ミッションマウントのボルトナットを外してフリーにします。
マウントを外してミッションがフリーになったらミッションとエンジンを切り離します。12mm、14mm、17mmのボルトを外してミッションとエンジンを切り離します。
ボルトを取り外してもミッションがエンジンに張り付いて外れ場合がありますが、そんなときはマイナスドライバーやバールなどでこじってミッションを切り離します。
普通ならジャッキやミッションジャッキを使って降ろしていくのですが、今回は軽いので筋肉ジャッキです(笑)
これでミッションが降りたのでクラッチカバーとご対面です。ここからは順序よく行きましょう。
- 12ミリのボルト6本外し、カバーとディスクを外す
- ミッション側にあるレリーズベアリングを交換
- エンジン側にあるパイロットベアリングを交換
ステップ5. 取り付け
- 一度新品のディスクとカバーを仮止めし、センター出しを行う(これをやらないとミッションがちゃんと付きません・・・今回は1回でスポンと入りました笑)
- センターが出たら、クラッチディスクを本締めします。その際、ボルトは対角線上に締め付けていきます。
- シャフトとレリーズベアリングの可動部分にグリスを塗布します。
- 筋肉ジャッキでミッションとエンジンを結合します
- 後は外した逆の手順で取付けていきます。
ステップ6. 試乗
最後に試乗して、クラッチ動作に問題なければこれにて作業完了です。
一般の方はプロの整備士に頼むのが安全!
文章にすると簡単そうに見えますが、知識と経験がないと、非常に危険な作業です。
愛車のクラッチ交換をDIY作業する際は、くれぐれも細心の注意を払いましょう。
基本的にはプロのメカニックに任せることを強く推奨します。