F1メルセデスチームが新たに開発したDASというシステム。
どんなシステムなのかも注目を集めましたが、レギュレーション違反ではないの?なども話題の中心となりました。
このDASはハンドルを手前に引いたり奥に押したりすることでサスペンションのセッティングを変更する機能が付いています。
F1では走行中にサスペンションのセッティングが変更できるのはレギュレーションに違反しています。
しかし、FIFAの裁定はレギュレーションに違反していないとの判断でした。
なぜ、この新システムDASはレギュレーション違反ではないのか、そしてなぜ、このDASが画期的なシステムなのか解説します。
DASとは
DAS(dual axis steering system)とは
F1マクラーレンが新たに採用したステアリングシステムです。
走行中のステアリング操作でタイヤのアライメントが調整できるシステムになります。
ハンドルを手前に引いたり奥に押すことでサスペンションアライメントのトー角がリニアに調整できます。
以下の動画分かりやすいです。
Esta noche analizamos el movimiento del volante de @MercedesAMGF1 con la pantalla de @ricohspain. A las 21h30. F1 pic.twitter.com/M4ozQQ348a
— Albert Fabrega (@AlbertFabrega) February 20, 2020
なんかかっこいいですね!こーゆーのはワクワクします!
F1レギュレーション 10.2.3
今回ニュースで紹介されたこの新システムDASはシステムの新しさもありますが、レギュレーションに遵守しているのか、という点でも注目されました。
注目されたレギュレーションの1つはこれです
10.2.3 車両が走行中、いかなるサスペンションシステムも、調整は一切行なわれてはならない
後述しますが、トー角というのはサスペンションのセッティングの上でも重要なものの1つとなります。
このトー角をドライバーの操作で調整できるとしたら、これは上記の規定に引っかるように思われます。その為、このDASはレギュレーション違反では無いかと問題となったわけです。
しかし、FIFAは、このDASは違反をしていないと判断を下しました。
この理由をわかりやすく解説している記事があったので、引用します。
レギュレーションでは、マシンが走行している間にサスペンションを変更することは許可されていない。それは明らかだ。
「車両が走行中、いかなるサスペンションシステムも、調整は一切行なわれてはならない」
F1のテクニカルレギュレーションの第10.2.3条にはそう記載されている。
したがってトー角の変更がサスペンションの調整によって行なわれている場合、そのシステムは禁止されているということになる。
しかしFIAは、メルセデスのDASはサスペンションの調整ではなく、単にフロントホイールを”操舵しているだけ”とみなしたということになるだろう。
ステアリングによって何をコントロールできるのか……これについてはレギュレーションにはそれほど細かくは明記されていない。テクニカルレギュレーションの第10.4.1条に、以下のような記載があるだけだ。
「2輪を超える車輪の操舵を可能とするステアリング装置は禁止される」
メルセデスのDASは、フロントホイールのトー角を”操舵”しているだけ……そういう意味で言えば、レギュレーションに完全に準拠していると言える。
またレギュレーションには、”ホイールはひとつの軸でしか操舵できない”とか、”ふたつのフロントホイールは同じ度合いで角度を変更するようにしなければいけない”といった規制はどこにもないのだ。
つまり、フロントホイール両輪の角度を、それぞれ個別にコントロールすることもできる……つまり、メルセデスのDASは遵法ということを意味するわけだ。
(motorsports.comより引用)
これは一言で言うと、「ハンドルを手前に引いたり奥に押したりしてハンドル操作しても問題ないよね」ってことです。
ハンドルを右に切ったり左に切ったりすると、タイヤは左右で同じ方向を向きます。ハンドルを右に切ればタイヤは左右とも右に向きます。
しかし、例えばハンドルを右に切った時に、左右のタイヤは内側を向いたって良いわけなのです、これはFIFAのレギュレーションに違反していません。なぜなら、ハンドル操作だからです。
メルセデスチームはこれを、ハンドルを手前に引く、奥に押す、という動作でできるようにしただけです。
だから、このDASはサスペンションの調整行為では無く、ハンドル操作になるのです!
だから、レギュレーション違反にならないのです。(結果的にトー角が調整されてますが)
構造
今回メルセデスのチームが行ったDASというのは、ハンドルとタイヤを繋ぐシャフトを2本に増やしています。(レーシングカーも私達が乗るクルマもシャフトの数は1本が普通です)
1つ目のシャフトはハンドルを左右に切ると、左右のタイヤが同じ方向に向きコーナリングします。これは通常のハンドル操作と一緒です。
もう1つのシャフトは、手前に引くとタイヤは左右内側に向くような構造になっているのです。(逆にハンドルを奥に押すと左右のタイヤは外側に向きます)
この2本目のシャフトでの操作がDASとなります。
そして、これはあくまでもハンドル操作なのです。なぜなら、通常のハンドル操作と同じ構造でたまたまフロントタイヤが内向きになったり、外向きになっている(トー角が変化している)に過ぎないからです。
わざわざ、DAS(dual axis steering system)、2軸ステアリングシムテムと名乗っているのは、DASはサスペンションの調整機構の事では無く、ハンドルの操作を2つのシャフトで行ってるシステムなんですよ!というアピールの為なんですね。
新レギュレーション
そこで、FIFAは来年からレギュレーションを追加します。
前輪の位置合わせは、単一のハンドルの回転運動の一定の機能によってのみ行われなければならない
これは【タイヤの操作はハンドルを回転させて操作してね】【ハンドルを押したり引いたりしてステアリング操作をしてはだめよ】っということです。
ということで、メルセデスのこの新システムDASは今年だけの投入となりそうですね。
サスペンションのセッティング
セッティングとは
そもそもなぜこのトー角の調整で話題になったのでしょうか?
それはセッティングと深く関係があるからです。
F1を見ていて、ちょくちょく「セッティングが決まった」「セッティングが出てない」などの話がでます。
これはエンジンのセッティングもありますが、足回りのセッティングがうまく調整できているかという話になります。
足回りのセッティングとは何かと言うと2つあります。
- 直進性能
- コーナリング性能
簡単に説明するなら、この2つの性能は相反する性質があります。
ですので、直進性能を高めるとコーナリング性能が落ち、コーナリング性能を高めると直進性能が落ちるのです。
ですので、サーキット場によってセッティングを変え、コースに合った足回りのセッティングに都度調整するのです。
トー角のセッティングとは
その足回りのセッティングで重要な項目の1つがトー角になります。
トー角の基本は2つです。
- トーイン
- トーアウト
タイヤが内向きになっているか、外側になっているかの違いです。
そして、トー角の違いを単純に表すならばこうなります。
トーイン=直進性能向上
トーアウト=コーナリング性能向上
となります。
直進性能を上げるとコーナリング性能が下がり、コーナリング性能を上げると直進性能が下がります。
サスペンションのセッティングとはまさにこのジレンマとの戦いなのです。
これをどのように調整するかはドライバーの運転の仕方によって変わったり、コースによって変わります。
「足回りのセッティングに正解は無い」とは言いますが、それは、この直進性能とコーナリング性能の相反する性質があるからに他ありません。
DASはどうなのか
それではこのDASはどのような動きをしているのでしょうか?
DASを操作している動画を見ると、直進ではハンドルを引いています。これで、タイヤをトーイン方向に動かし直進性能を上げています。
反対にコーナリングを始めると、ハンドルを奥に押して、トーアウトにタイヤを動かしています。
Esta noche analizamos el movimiento del volante de @MercedesAMGF1 con la pantalla de @ricohspain. A las 21h30. F1 pic.twitter.com/M4ozQQ348a
— Albert Fabrega (@AlbertFabrega) February 20, 2020
まさに、セッティングにおけるジレンマをこのDASで解消していますね。
だからこそ、このDASというシステムが話題になったのです。
まとめ
このDASはセッティングのジレンマを解消した素晴らしいシステムだと思いますが、その反面、私は来年から禁止されるときいて少しホッとしています。
サスペンションのセッティングはドライバーとメカニックの腕の見せどころでもあります。
このジレンマがあるからこそ、レーシングチームは試行錯誤しながらベストなセッティングを探るのです。
それがある意味、レースの醍醐味であり、レースを盛り上げる要素であると思います。
これからもF1で白熱したレースを期待したいですね!