こんにちは、seibiiメカニックの野仲です。
近年のタイヤ技術は目覚ましく発展しています。
クルマに乗っていて、タイヤが進化したと気づくことは少ないですが、グリップ性能、タイヤ騒音など一昔前のタイヤと比べると格段に性能は上がっています。
ここ最近では、環境を意識した省燃費タイヤという商品が大々的に売り出されています。燃費という数字に表れる性能から購入された方も大勢いると思います。
しかし、省燃費タイヤとは一体何かと言われるとなかなか分からないのでしょうか。
ホントにタイヤを変えるだけで燃費が向上するのかと疑問に思っている方もいると思います。
そこで、省燃費タイヤとはどのようなタイヤか、どのような性能があり、通常のタイヤと何が違うのかをご説明します。
省燃費タイヤの基準
一口に省燃費タイヤといっても好き勝手に名乗れるわけではありません。
JATMA(一般社団法人 日本自動車タイヤ協会)という協会が独自のグレーディングシステム(等級)を持っており、この基準に満たしたタイヤだけが省燃費タイヤを名乗れます。
省燃費タイヤとして認められる為には基準が2つあります。以下の2つが省燃費タイヤの基準となります。
転がり抵抗性能
ウェットグリップ性能
転がり抵抗性能は5段階に分かれており<AAA>、<AA>、<A><B>、<C>となります。
ウェットグリップ性能は4段階<a><b><c><d>に分かれています。
このうち、転がり抵抗性能はA以上の3つ、そして、ウェットグリップ性能はa~dの性能を有していると、省燃費タイヤとして販売が認められます。
タイヤの変形と転がり抵抗
省燃費タイヤの2つの基準で転がり抵抗性能とウェットグリップ性能がありました。
ウェットグリップ性能は濡れた路面でのタイヤ性能を表します。濡れた路面でもタイヤがスリップしずらいという事です。
それでは、もう1つの転がり抵抗性能とは何でしょうか?
転がり抵抗とはタイヤが回転した時に回転方向とは逆に生じる力の事です。転がり抵抗が小さいとより少ない力でタイヤが転がることができます。
この転がり抵抗を小さくすることができれば、燃費の改善を図ることができます。
それでは、転がり抵抗の原因となっているものは何でしょうか?
タイヤの転がり抵抗となっている要素は3つあります。
タイヤの変形
接地摩擦
空気抵抗です。
この3つが走行時のタイヤの転がり抵抗を生み出しているものとなります。
しかし、タイヤの転がり抵抗のおよそ9割は、タイヤの変形が原因となっています。
ですので、タイヤの変形を抑えることができればタイヤの転がり抵抗を小さくし、車の燃費が向上するという事になります。
それでは、タイヤの変形とは何でしょうか?
タイヤの変形と発熱
例えば、自転車では、タイヤの空気圧が低くなった時はペダルをこぐ力が通常の時よりも必要だと思います。
これは、タイヤ回転の運動エネルギーの一部がタイヤの変形に代わってしまっているからです。
タイヤの変形が起こるとタイヤ内部で発熱を起こします。回転エネルギーが熱エネルギーに代わってしまう、これがエネルギーのロスとなってタイヤの回転運動の抵抗となってしまいます。
ですので、自転車の空気を入れることによってタイヤの変形が抑えられると、発熱が抑えられ、少ない力で前に進むことができるようになります。
車のタイヤにも同じことが言えます。タイヤの空気圧を高めると、タイヤの変形が抑えられ、転がり抵抗は低くなります。
しかし、常に過大な空気圧で走行するわけにもいきません。そこで、省燃費タイヤでは新たな素材をタイヤゴムに混ぜることによって、タイヤの発熱を抑える工夫がされています。
例えば、タイヤの変形を抑えるために、タイヤを固く固めてしまうというのも、転がり抵抗を小さくする方法と考えられます。
おもちゃのクルマのタイヤで考えると、ゴム製よりもプラスチックの方が抵抗が少なく、よく転がるのと一緒です。
しかし、タイヤを装着したクルマがなぜカーブを曲がれるかというと、タイヤのゴムが柔らかく、それで路面を捕えるからに他ありません。これをグリップすると言いますが、グリップしなくなった時というのはタイヤが滑っている状態(スリップ)となります。
プラスチック製のタイヤはテーブルの上を滑ってしまいますが、ゴムは滑りにくいという事です。
固いタイヤというのはこのグリップ力が低く、スリップしやすいタイヤと言えます。これでは燃費が向上してもすぐにスリップする危険なタイヤになってしまいます。
そこで、タイヤメーカーはグリップ力を低下させることなく、転がり抵抗を小さくするために、新たな素材をタイヤに配合することになりました。
その物質がシリカです。
シリカをタイヤに配合することによって、タイヤの発熱量が抑えられました。発熱量を抑えることによって、タイヤ変形のロスを少なくし、転がり抵抗を小さく抑えながらもグリップ力を確保するという相反する性能を実現できたと言えます。
省燃費タイヤというのは実はすごいテクノジーで開発されていたんですね。
タイヤ素材
タイヤはゴムからできているのはご存じかと思います。
しかし、そのゴムにも天然ゴムと合成ゴムがあり、さらにそこに加える添加剤を変えることにより、タイヤの性能を向上させています。
省燃費タイヤと通常のタイヤで大きく違うのはシリカの配合となります。
しかし、タイヤに使われている物質は数多く、そのすべてを説明することは大変です。
そこで、ここでは基本的なタイヤ素材の説明を行います。
天然ゴムと合成ゴム
タイヤに使われているゴムにはおおきく分けて2種類あります。
天然ゴムと合成ゴムです。
天然ゴム
天然ゴムはへベアブラジリアンという木から取れる樹液によって作られます。
取れた樹液の加工方法の違いによって2種類に分けられますが、天然のゴムは分子の構造が規則正しい構造をしており、破壊強力が合成ゴムよりも高い性能を持っています。
そのため、現在でもタイヤに使われる50%は天然ゴムとなっています。
天然ゴムが表舞台に出てくるのは15世紀になります。
プエルトリコとジャマイカに上陸したコロンブスが発見したと言われています。
ただし、コロンブスは発見しただけで、すでに現地の住民はゴムを使用して防水布や水筒を作っていたと言われています。
ゴムを発見したコロンブスはそれを持ち帰り、ヨーロッパに紹介しました。
しかし、そのころは工業製品としての用途はほとんど無く、本格的に工業製品としてゴムの利用を開始したのは19世紀ごろとなります。
それまで、ゴムの弾性や絶縁性は知られていましたが、温度が上がるとべたつき、温度が下がると硬化するというゴムの特性で、なかなか工業利用ができなかったようです。
しかし、生ゴムに硫黄を混ぜて加熱すると、ゴムの強度や耐久性が向上するという発見があり、それを境にゴムの開発が進んでいくこととなりました。
この加硫法を発見したのが、アメリカ人のグッドイヤー氏で、タイヤメーカーのグッドイヤー社はかれの名前から由来しています。
合成ゴム
木の樹液から取れるゴムを天然ゴムというのに対して、工業的に作られるゴムを合成ゴムと言います。
合成ゴムは当初、天然ゴムに代替えする目的で発展しましたが、天然ゴムが極めて優れていることから、現在でも天然ゴムの完全な代替え品とはなっていません。
しかし、合成ゴムは重合方法や触媒の方法を変えることによって様々な特性を持ったゴムを作成することができます。
また、安定した品質のゴムを作りだすことができることから、タイヤにはなくてはならないものとなっています。
タイヤに使われる代表的な合成ゴムはスチレンブタジエンゴム(SBR)というものです。
耐久性の良いゴムが安く生産が可能であり、重合プロセスや配合する化合物によって特性を変えることが容易なのが特徴となります。
カーボンブラック
通常のタイヤのコンパウンド(ゴムの配合)にはカーボンブラックが配合されています。これはタイヤの強度を高めるためで、この配合を変えることでタイヤの特性を変えることができます。
カーボンブラックはゴムのポリマー(分子の繋がり)を強固にする性質があり、タイヤには無くては欠かせない配合剤となっています。
カーボンブラックとは煤のことですが、ただの燃えカスを使用しているわけではありません。
ゴムの分子の繋がりを強固にするために、このカーボンブラックの粒子の大きさや表面積、吸油量などの性質を変えたものを使用しています。
カーボンブラックの粒子が小さくなるほど、タイヤゴム分子間の構造が強固になりますが、その分、発熱性が悪くなるため、タイヤトレッド部やサイドウォール部など使用部位によって使用するカーボンを変え、ゴムの特性を変化させています。
シリカ(二硫化ケイ素)
省燃費タイヤの開発で大きく進化したところは、このシリカの配合と言えるかもしれません。
低い転がり抵抗を実現するためにはタイヤの変形を抑えることが重要です。この変形は発熱を伴うために、発熱を抑えることが転がり抵抗を抑えることになります。
シリカはカーボンブラックと比べて発熱を抑えることができ、タイヤ変形による無駄なエネルギーを抑えることができます。
また、シリカが配合されているタイヤはウェット路面時に優れた性能を発揮します。これはシリカ自体が水との親和性があるためで、省燃費タイヤには欠かせないものとなっています。
シリカはカーボンブラックと比べて微粒径となっており、低発熱で高いウェット性能を有しますが、シリカ配合時の練り工程がカーボンブラックと比べて増やさなければならず、生産性の面でカーボンブラックと劣るという欠点があります。。
また、シリカは省燃費タイヤの開発の欠かせないものですが、もともとタイヤゴムとの相性はよくありませんでした。
カーボンブラックと同じようにゴムと混ぜても化学反応が起こらず、タイヤゴム使用するには不十分な性能しか発揮されませんでした。
そこで、シリカを配合する際に、シランカップリング剤を配合しました。
この技術革新によりシリカはゴムと強い結びつきが起こり、省燃費タイヤの開発につながったのです。
トレッド面のタイヤゴムにシリカ配合のゴムを使用すると、摩耗性能を犠牲にすることなく、転がり抵抗の低減を図ることができました。
また、濡れた路面でのウェット性能も確保することができました。
まさにシリカが無ければ、現在の省燃費タイヤは生まれていなかったと言えるでしょう。