お客様から「愛車ビートルのブレーキが固着してしまい、タイヤが引きずって困っているから直して欲しい」というご相談を頂きました。ご自宅の私有地に置いてあるお車で、軽く前後に動かした時に左前のタイヤの引きずりに気が付いたそうです。
詳しく聞いてみると、なんと、お車は、クラシックカー好きにはたまらない、1974年式のフォルクスワーゲン・ビートル(volkswagen beetle 1974)。
このビートル、生産開始は1938年で、2003年まで生産されていたという、世界中で愛されている名車です。
必要な整備・修理内容は「ドラムブレーキ固着の修理」になるのですが、これは「分解整備」に該当します。通常のお車ですと、分解整備は、行政から許可を受けた認証工場でなければ作業ができません。従い、Seibiiでは、出張作業での分解整備に該当する作業は一切行わず、提携する認証を有する整備工場様をご紹介しています。
しかし、今回は「ナンバープレートが付いていない一時抹消登録済みのお車で、公道を走らないという条件」でしたので、国土交通省自動車局整備課に、出張・お客様の駐車場での分解整備作業に、法律上の問題が無い事を確認した上でご対応させて頂きました。
車を動かすことができずに大変困ってらっしゃったお客様でしたので、無事にご自宅の駐車場にて整備・修理を完遂でき、大変喜んで頂けました。
その様子をお届けします!
まずはジャッキアップ!点検からスタート
まずはジャッキアップして「タイヤの引きずり」を点検しました。
が、
まったく、ビクともしません!
思っていた以上にがっちり固着していました。そこで、僕たち整備士の頭をよぎった不安は、、、
- ブレーキシューのスプリングが中で破損していたらどうしよう
- ベアリングが焼き付いて固着していたらどうしよう
などなど
いろいろ不安が頭を過りまました。
しかし、プロのメカニックとして、ここは臆していても仕方ありません!
まずはタイヤを取り外して、ドラムを取り外しにかかる事にしました!
特徴的なドラムブレーキ
最近の車だけを触っているメカニックには慣れない話ですが、ビートルは「フロントにもドラムブレーキ」が使われています。
近年の車は、ディスクブレーキが主流で、ドラムブレーキは使われていたとしても、「後ろのブレーキ」として使用されています。
4輪ドラムブレーキは近年なかなか見れないですね。整備士魂が疼きます!
ドラムブレーキとディスクブレーキ
豆知識ですが、「ドラムブレーキはディスクブレーキに劣るの?」と言われれば、そういうわけではありません。
ただし、構造上、ブレーキの①コントロール性と②放熱性の2つの観点で、「ディスクブレーキの方が適している」訳です。
ビートルはスピンドルタイプのドラムブレーキ
タイヤを取り外してみると、ビートルのドラムブレーキはスピンドルタイプのドラムブレーキですね!
スピンドル式のドラムブレーキは、ドラムの真ん中にキャップが付いています。キャップを取り外すとナットがあり、ベアリングを締め付けています。
ビートルは六角ボルトでナットを固定されている
このナットを取り外さないとドラムが取れないのですが、なんと六角のボルトでナットをとめています。
このナットが緩んでしまうと、最悪タイヤが外れる危険性がある為、ナットが走行中に緩まないように固定されます。
過去、私が整備・修理を行ってきた日本車は、割りピンが差し込まれナットが外れないようになっていましたが、ビートルはねじで固定しているんですね!
あと、地味にこのナットが逆ねじ(時計回りに緩める)で驚きました!
もちろん、取り外す前に、どれくらいのトルクでナットが締め付けられているのか確認します。
ビートルのブレーキ分解 : 基本を大切に
正直に言いますが、ビートルのブレーキを分解するのは初めてでした。
当然ながら、修理書も手元にありません。
従い、作業は一つずつ丁寧に、慎重に、基本の作業を怠らないように作業を実施しました。
ブレーキドラムの取り外し
車が通常の状態であれば、真ん中のナットを取り外すとドラムは外れます。
しかし、今回のお車は固着しているため、ドラムは外れません。
タイヤを使ってブレーキドラムを外す
そこで、一工夫!
一度この状態のまま、タイヤを取り付けます。取り付けたタイヤを前後左右に揺すりながら、タイヤと一体でドラムを外していきます。
先にベアリングを外す
少し揺すると、ホイールベアリングが前に出てきたので、落とさないように、先にベアリングを外します。
作業を砂利の上で実施したいた為、ベアリングを落としてしまうと、砂や砂利がベアリングに付いて大変なことになります。やはりここも、慎重に作業を行っていきます。
はい、ベアリングは特に問題なさそうです!
- 摩耗は無い
- グリスの状態も良い
きちんとメンテナンスを行ってきたベアリングだと分かりますね!
更にタイヤを揺すりながら、慎重に!
続けてタイヤを揺すっていきます。すると、徐々にドラムブレーキが外れていきました。
あと、もう少し!
しかし、ここで一気に、取り外すことはしません!
もし、ドラムブレーキの部品が中で外れていたら、ドラムを外した瞬間に部品がバラバラと落ちてしまいます。タイヤとドラム一体で取り外すとこんなことになりかねません。
という事で、タイヤを先に取り外してから、手で慎重にブレーキドラムを外していきます!
ドラムの清掃・サビ落とし
ドラムが外れました!
そして、中を見てみるとサビだらけです!wow!
ただ、ドラムブレーキ自体は良好でした。ホイールシリンダーからの液漏れも無く、他にも破損しているようなところはありません。
ドラム内部のグリスは若干の汚れはあるものの、汚れ、量ともに問題なさそうです!
ブレーキ固着の原因特定!
なので、ブレーキ固着の原因はこのサビで間違いないようです!
というわけで、サビを落としていきます。
ブレーキシューのサビ落とし
ペーパーやすりでゴシゴシとブレーキシューのサビを削っていきます。
サビを落としてみると、ブレーキシューの角がきちんと削られているのが分かりました。
整備士が見れば、車の整備履歴がわかる!
角があるとブレーキを踏んだ時にキーという音の原因となります。なので、きちんと角を削っているというはきちんと整備を行っている証拠です!
このようなブレーキシューの処理やベアリングのグリスを見ると、いままできちんと整備を行っていたのが分かります。
前のオーナーは毎回きちんと工場に点検を出しており、点検記録簿も全てあったそうです。
メンテナンスを行っていた整備工場もキチンとこの車両を整備していたのが分かります。
このビートルはボディーは錆が出てきており、塗装も変色していますが、きちんとメンテナンスを行ってきた素晴らしいクルマと言えますね!
次いで、ドラムのサビも落としていきます。
清掃、給油、調整
サビを落とし終えたら、きれいに清掃・給油を行います。
ブレーキクリーナーを使用して汚れを落とし、給油を行っていきます。
ブレーキシューが動いた時にバックプレートと当たる箇所、6か所を給油します。
走行時に熱が発生する場所できちんと適したグリスを使用しないと異音の発生原因となってしまいます。
ですので、給油するグリスも、モリブデンが配合されたグリスを使用します。当然の作業ですね!
清掃・給油が終わったので、ドラムブレーキを戻していきます。
しかし、ドラムを付けると動きません・・・
ブレーキシューの調整
どうやら、シューの調整も必要なようでした。
そこで、シューの調整を行っていきます。
しかし、この調整部分も動きが渋いです・・・
潤滑剤を付けて、マイナスドライバーで叩いて調整していきます。
本来ならこの調整部分も分解して清掃・給油したいところですが、今回はお預けです。
シューとドラムの隙間が大きいとブレーキペダルの遊びが増えてしまいます。
従い、適切な隙間、軽くシューが当たる程度、ドラムを回したときにシャーと音がする程度に調整しました。
取付け
シューの調整が終わったらドラムを戻していきます。作業内容は以下の通り。
- ベアリングをセット
- ワッシャーも切り欠きに合わせて取り付け
- ナットを取り付けます。
- 取り外すときに確認した締め付け具合でナットを締め付け
タイヤの取り付け
六角のボルトを締め付けたらタイヤを取り付けます。ベアリングキャップはまだ取り付けません。
ホイールベアリングナットの締め付けは手で緩む程度のトルクで締め付けられていました。
しかし、あまりにナットの締め付けが緩いとホイールにガタが出てしまうので、一度タイヤを付けてガタが出ないか確認します。
もちろんナットの締めすぎも良くありません。
ホイールにガタもなく良好です!タイヤもスムーズに回転します!
そして、最後にベアリングキャップを取り付けて完了です!
他のブレーキも調整
恐らく、他のブレーキも同様にサビついているだろうという事で、右前のブレーキも作業を行いました。左と同様にサビだらけだった為、清掃・給油・調整を行い、こちらもスムーズにタイヤが回転するようになりました。
最後に、ビートルの後ろで作業を見守っていたワンちゃんに別れを告げて作業は完了です。
まとめ
初めてのビートル、しかも、ブレーキ固着修理の作業でしたが、現代のクルマと基本構造は変わらないので、作業はスムーズに行えました!
また、過去きちんとメンテナンスがされてきた車両でしたので、想定外のトラブルも起きなくて何よりでした。
通常、分解整備が絡む整備・修理は国が認証した整備工場でしか作業することは出来ませんが、今回は抹消手続き済みのお車であり、私有地のみでご利用されるとのことでしたのでご対応させて頂きました!!
「車が動かない」「レッカーしたくても道路が狭くてレッカー車が入れない・・・」とお困りのお客様でしたので、お役に立てて嬉しいですし、整備士冥利に尽きるとはこの事だ、というお仕事でした!
再度、ナンバープレートを付けて、公道を走る場合は、認証資格を保有した工場でブレーキ整備を診てもらって下さい。
最後に宣伝です。
Seibii(セイビー )では、国家資格を有する整備士・メカニックがお客様のご自宅や職場の駐車場にお伺いし、その場でお車の整備、修理、パーツ取り付けを行います。
テスラ(Tesla)へのドラレコ取り付けのみならず、他のお車へのドライブレコーダー、ETC、カーナビといった取り付けから、車の故障診断、バッテリー上がり、バッテリー交換、窓ガラスの油膜取りと撥水加工コーティング、タイヤの付け替えと幅広く実施しています。
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