「個人事業主の経費」というと、「たくさん入れたもの勝ち!」と思っている方は多いのではないでしょうか?
何か出費したらとりあえず領収書をもらっておいて、事業の経費にすることが習慣になっている方もいるかと思います。
経費は所得税を減らす効果があり、個人事業主の方にとっては、重要な節税対策のひとつです。
しかしだからといって、なんでもかんでも経費にして良い訳ではありません。
計上できるものとできないものを明確に分け、計上時点をキチンと管理する必要があります。
そこで今回は、自動車整備士が個人事業主となった場合の経費について詳しく解説していきます。
個人事業主の経費とは?
経費とは、ご存知の通り、事業活動を行う上で必要な費用のことを指します。
自動車整備士であれば、ヒューズなどの部品代、工具、移動の際のガソリン代などです。
個人事業主として働いた場合、対価として収入を得て、それが売上となりますが、経費はこの売上から差し引くことができるものです。
売上から経費分を差し引くことで、所得に課されることになる所得税を減らす効果があります。
ですが「なんでもかんでも経費にできるか?」といったらそうではありません。
特に個人事業主は、プライベートの出費との区分があいまいになりがちなため、正しく管理していないと過剰に経費化してしまいがちです。
ここでは個人事業主である自動車整備士が経費を考える上で、大事なポイントを3つご紹介します。
- 事業活動に必要かどうか
- 不必要に払っていないか
- いつに計上すべきものか
事業活動に必要かどうか
個人事業主として経費を考える上で、まずは、この経費は事業活動に必要かどうか?を強く意識してください。
事業活動に必要かどうかは、業種によって全く異なります。
例えばガソリン代ですが、業務に車が必要な自動車整備士であれば疑いなく経費にできます。
しかし一方で、ブログのライターさんなどのように車移動を全く必要としない人にとっては、ガソリン代は私費とみなされ経費にできないことが多いです。
事業活動に必要かどうかは、業種、さらには人によって違うので、ご自身の業務と照らし合わせてよく考える必要があります。
不必要に払っていないか
経費は個人事業主の所得税を減らす効果があるとお伝えしましたが、その効果は税率分だけです。
不必要に払っていないか?を考えた上で出費することをおすすめします。
ざっくりとした計算ですが、売上400万円未満の方の場合、所得税率は5~10%となります。
経費を10,000円払った場合、その節税効果は500〜1,000円です。
事業に必要なものであればもちろん出費して構いませんが、「経費になるからいいか」で払ってしまった場合、9,000~9,500円はただ単にお金がなくなっただけです。
特に元会社員だった場合、経費は「立替」であり「全額戻ってくるもの」という認識が抜けていない方がいます。
不必要に払っていないか、出費する前にご確認ください。
いつに計上すべきものか
経費はいつでも計上していいものではありません。
いつに計上すべきものか?を考えることが必要になります。
例えば工具代をネットでクレジット決済したとします。
決済が12月、しかし納品が遅れ工具を使い始めたのが1月だった場合。
この場合、12月に計上してしまう方が多くいらっしゃるかと思いますが、この工具代の経費計上は1月となります。
電気代やガソリン代、その他多くの経費が、使用の時点と決済の時点がずれています。
正しい計上時点は使用の時点であることを忘れずに計上してください。
※現金主義といって、決済時点に計上していいルールもありますが、適用には申請が必要となります。
個人事業主は赤字になっても大丈夫!?
経費は売上から差し引くものです。
売上より経費が多い場合は赤字となります。
事業を始めたばかりの際は揃えるものが多く、経費がかさむことがあるかと思いますが、必要なものは躊躇なく経費にいれましょう。
個人事業主の場合、赤字になっても利点があるようになっています。
しかし、これからその利点について解説していきますが、この利点目当てに赤字にすることはないようにした方が良いかと思います。
自動車整備の業務は、卸売などと比べて原価率が低い(=経費が少なくて済む)はずのサービス業です。
売上が少ないうちは仕方ありませんが、売上が伸びてもなお何年も連続して赤字となると、不必要なものを経費にしているのではないか、という疑いをかけられかねません。
以下の2つの利点について解説していきますが、たまたま赤字になった場合に利用する程度に思って頂ければと思います。
- 損益通算
- 純損失の繰り越し
損益通算
個人事業主の業務は、所得税の計算上「事業所得」という区分に分けられます。
他に給与所得や雑所得などその他所得がある場合、黒字であればそれぞれの所得をただ加算していくだけですが、「事業所得」が赤字の場合、他の所得と相殺することが可能です。
例えば事業所得が-100万円となり、給与所得が200万円の場合、100万円の所得について税金が計算されます。
この制度を損益通算といい、青色申告・白色申告関係なく個人事業主であれば適用可能です。
自動車整備士が個人事業主として独立した場合、事業が軌道に乗るまではアルバイトなどと兼務していくこととなるかと思います。
赤字になった場合は兼務で得た所得と相殺できますので、是非この制度を思い出して活用してみてください。
純損失の繰り越し
青色申告をしている個人事業主に限られますが、ある年に赤字になった場合、その損失を繰り越せる制度があります。
この制度を、純損失の繰越控除といいます。
例えば2022年に-100万円の所得、2023年に200万円の所得となった場合、2023年は100万円(200万円ー100万円)に対して所得税が計算されます。
出た赤字は翌年から3年間繰越できるので、赤字も無駄にはなりません。
赤字となるからといって経費を抑える必要はないので、覚えておいて頂ければと思います。
個人事業主は経費として家族に給料が払える
個人事業主は経費として家族にお給料が支払えます。
家族へのお給料支出のため、持ち出しは実質0円です。
節税効果が高いため、是非とも利用したい制度ではありますが、この制度を利用するためにはご家族の方がその事業をメインとして働いている必要があります。
共働きの家庭が多くなっている昨今、個人事業主として独立されている自動車整備士の方々のご家庭も同様かと思いますが、配偶者の育休中なども利用可能な場合があります。
なお、この制度を利用するために配偶者の方が退職する場合は、社会保険料の負担が増加してしまう恐れがありますので事前にご確認ください。
では、青色申告の場合と白色申告の場合、それぞれの場合について解説していきます。
- 青色申告の場合:青色事業専従者給与
- 白色申告の場合:事業専従者控除
青色申告の場合:青色事業専従者給与
青色申告の個人事業主の場合、青色事業専従者給与という制度が活用できます。
条件は以下の通りです。
- 支給対象は、生計を一にする15歳以上の配偶者その他の親族
- その事業に6か月以上、専ら従事
- 届出書を提出し、その記載金額範囲内で支給
- 労務に見合う支給金額
特に「労務に見合う支給金額」の部分が重要となりますが、これは「任せる仕事内容に応じて支給金額を決定してください」ということです。
仕事内容が事務作業のみにも関わらず支給金額が月数十万円、となると一般常識からは外れています。
世間一般の支給金額を参考に金額は決定してください。
白色申告の場合:事業専従者控除
白色申告の個人事業主の場合、専従者控除という制度が活用できます。
こちらは厳密に言えば経費ではありませんが、経費のような効果がありますのでこちらに含めてご紹介させて頂きます。
条件としては以下の通りです。
- 支給対象は、生計を一にする15歳以上の配偶者その他の親族
- その事業に6か月以上、専ら従事
- 配偶者は支給上限86万円、その他の者は支給上限50万円
青色事業専従者給与と違い、届出書の提出は必要ありません。
整備士は車を固定資産にして経費に出来る
業種や人によって経費化できる項目は変わると先に解説しましたが、自動車整備士は車の費用を経費にできます。
個人事業主は個人名での契約となりプライベート感が残るため、車を経費化できる業種は多くはありません。
ですが、自動車整備士は「車は業務に必要」と自信をもって言えるかと思います。
車の費用を経費化できる点は、自動車整備士の特権といえそうです。
車を含め、資産の経費化について以下の2点を解説していきます。
- 減価償却費の計算方法
- 30万円未満の資産
減価償却の計算方法
車を経費化できるとお伝えしましたが、車の購入金額を一度に経費にできる訳ではありません。
金額が10万円以上のものは固定資産と呼ばれ、その購入代金を分割して経費化していく必要があります。
これを減価償却といいます。
減価償却費の計算方法は以下の通りです。
()で例を記入しています。
計算式:購入金額(144万円)÷ 耐用年数(4年)= 減価償却費(36万円 )
たとえば3月に購入した場合、その年は3~12月と10か月間しか使用しないこととなりますので減価償却費は30万円になります。
計算式:1年分の減価償却費(36万円)÷ 12か月 × 10か月 = 30万円
なお、耐用年数は法律で決められているため自分で定めることはできません。
以下に主な耐用年数を記載しておくので、参考にしてください。
- 普通車(新車)の場合:6年
- 軽自動車(新車)の場合:4年
- 普通自動車・軽自動車(中古車)の場合:(新車の耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 × 0.2
(参照:国税庁 主な減価償却資産の耐用年数表)
(参照:国税庁 中古資産の耐用年数)
30万円未満の資産
経費のうち購入金額が大きいものについては減価償却で対応しますが、その金額の上限は以下の通りです。
白色申告か青色申告かによって金額の認識が異なるので分けて解説していきます。
申告方法 | 10万未満 | 10-20万未満 | 20-30万未満 | 30万以上 |
---|---|---|---|---|
白色申告 | 全額経費 | 3年減価償却 | 減価償却 | 減価償却 |
青色申告 | 全額経費 | 全額経費 | 全額経費 | 減価償却 |
白色申告の場合
白色申告の個人事業主の場合、10万円未満の資産については一度に経費化可能です。
自動車整備に使う一般的な工具類については10万円未満になるかと思うので、購入した年に経費化してください。
一方で、10万円以上の資産については減価償却が必要です。
業務に使うパソコンや大型の工具セットなどの資産はこちらの区分に該当してくるかと思いますので、一度に経費化せず、その資産の耐用年数に応じて減価償却するようにしてください。
※10万以上~20万円未満の資産の資産については資産別の耐用年数に関わらず、3年で償却することもできます。
青色申告の場合
青色申告の場合は、資産の購入金額30万円未満までを一度に経費化可能です(年間300万円まで)。
白色申告にはない特典なので、ぜひ利用してください。
家事按分を活用しよう!
事業活動に必要かどうか?を見極めることで多くの費用を経費にできる個人事業主ですが、個人として事業を行っている以上、すべての費用の契約名義人は個人です。
事業とプライベートの線引きが非常に難しい立場でもあるので、__事業とプライベートで共有している費用についてはその線引きをしっかり行いましょう。____
事業に必要な割合のみを経費化する方法を、家事按分といいます。
なお、業務中のみ使用する費用は100%経費化可能です。
家事按分については事業とプライベートで共有しているもののみの対応となりますのでご注意ください。
個人事業主にとって大切な考え方である家事按分について、ポイントと計算方法を解説していきます。
- 家事按分におけるポイント
- 家事按分の計算方法
家事按分におけるポイント
自動車整備士が個人事業主として独立した場合、事業とプライベート両方で使用している費用については家事按分することになります。
その際のポイントは以下の3つです。
- 根拠のある按分率を設定する
- ものによって按分率を分けてOK
- 一度設定した按分率は変更しない
根拠のある按分率を設定する
家事按分の際、「プライベート7割・事業3割で計算する」などというように按分率を決めますが、その按分率は根拠のあるものとしてください。
「5割・5割でいいか〜」と適当に決めるのはだめです。
経費にできる項目が人によって異なるように、按分率についても人によって全く異なってきます。
以下に事業按分率の例を記載しますが、あくまで参考とし、ご自身で設定するようにしてください。
- 携帯電話代:一日24時間のうち、6時間仕事 → 事業按分率 6/24(25%)
- ガソリン代:平日は仕事でしか車を使わない週休2日 → 事業按分率 5/7(約70%)
- 光熱費:一日24時間のうち2時間在宅勤務 → 事業按分率 2/24(約10%)
ものによって按分率を分けてOK
携帯電話代の按分率は○○%、ガソリン代の按分率は○○%、といったように、按分率は費用ごとに分けて頂いて構いません。
それぞれ適切な按分率になるように設定してください。
一度設定した按分率は変更しない
一度設定した按分率は翌年以降も変更しないようにしましょう。
「事業内容が業務委託整備から出張整備に変わった」など明確な理由がある場合は構いませんが、特別な理由がない中での按分率変更は利益操作とみなされる可能性があります。
家事按分の計算方法
事業とプライベート両方で使用している費用について、家事按分の計算方法をご紹介します。
家事按分の計算方法は以下の通りです。
()で例を記入しています。
計算式:年間のガソリン代(14万円)÷ 事業按分率(5/7)= 経費(10万円 )
計算ソフトなどを利用している場合は家事按分を登録できる場合があります。
ご自身の使用しているソフトをご確認ください。
まとめ
自動車整備士が個人事業主となった場合の経費について解説してきました。
個人事業主は契約名義人が個人であり、どうしてもプライベートとの境界線があいまいになってしまう立場となります。
事業活動に必要かどうか?を見極めて、経費に入れるかどうかご検討ください。
また個人事業主は、配偶者への給与を経費にできる他、青色申告の方については固定資産もより多く経費化できるようになっているとお話させて頂きました。
車の費用を経費化できる業種は少なく自動車整備士の特権ともいえますので、是非経費を正しく管理して、その出費を事業貢献させていって頂ければとおもいます。
(この記事は、2022年12月時点の法令等に基づいて作成されています。)