暑い夏に必須のカーエアコン。車のエアコンからは「温風」と「冷風」が出ますが、それぞれ別の仕組みによって生み出されています。ところで、車のエアコンが、どの様に「冷たい風」を作っているのか、意外と知られていません。この記事では、カーエアコンが冷風を生み出す仕組みについて解説します。
目次
基本原理は「気化熱」
カーエアコンが冷たい風を生み出す基本原理はとても単純です。液体が蒸発するときに周囲の熱を奪う気化熱の原理を利用します。スポーツを行ったときに汗を出し、その汗で体温を下げるのと同様の原理です。
ところで、この気化熱を利用する仕組みは、冷蔵庫等その他の機械でも利用されています。
カーエアコンが冷気を作り出す4つのサイクル
大きく4つのサイクルを回すことで、車は冷気を生み出しています。
- 冷媒を圧縮し、ガスから液体にする
- 圧縮した冷媒を冷やす
- 冷媒の圧力を下げて霧状にする
- 霧状の冷媒を気化させる
冷たい空気を作り出しているのは「4」の工程になります。また、4まで行くと、1に戻ります。
5つの主要構成部品:エアコンユニット
カーエアコンは、複数の部品から構成される「ユニット」になっています。車両の各場所に部品が付いており、それらが配管でつながっています。(以下図の通り)
エアコンユニットの主な構成部品は以下5つです。
- クーラーコンプレッサー(ACコンプレッサー)
- コンデンサー
- ドライヤー
- エキスパンションバルブ
- エバポレーター
主要部品1.クーラーコンプレッサー(ACコンプレッサー)
エアコンガスを高温・高圧にし、圧送する役割を担います。
コンプレッサーを稼働させる為に、エンジンとベルトで繋がっています。その為、補機類としてエンジンに取り付けられています。
主要部品2.コンデンサー
高温・高圧のエアコンガスを冷やし、液体にする役割を担います。
走行風を利用してエアコンガスを冷やす為、前バンパーの中に取り付けられています。
主要部品3.レシーバー&ドライヤー
エアコンガスの中にある水分やゴミなどを取り除く役割を担います。
エアコンユニット内に水分やゴミが循環すると、コンプレッサーやエアコンユニット接続部に破損が生じる恐れがあるため、レシーバー&ドライヤーにてキレイに取り除きます。
主要部品4.エキスパンションバルブ
エアコンガスをガスを蒸発させやすくする為に、液体のエアコンガスを霧状にする役割を担います。
液体のエアコンガスを急激に膨張させることで、液体のエアコンガスの圧力を低下させ、低温・低圧力の霧状のエアコンガスにします。
もし、エアコンガスに水分が混ざっていると、エキスパンションバルブにてエアコンガスの温度が下がった際、水分が凍結してしまいます。その場合、エキスパンションバルブが凍結してしまい、正しくエアコンを作動させることができなくなってしまいます。
主要部品5.エバポレーター
霧状のエアコンガスを蒸発させ、冷気を作る役割を担います。
エバポレーター内にエアコンガスを通し、霧状のエアコンガスを蒸発させます。その際に作り出す冷気を、ファンで室内に送り込むことでエアコンを作動させます。コップに氷水を入れたときの様に、エバポレーター内部は、キンキンに冷やされており、水滴が付きます。エアコン作動時の車から水滴が落ちているのをよく見ると思いますが、エバポレーターに付着した水滴が車外に排出されているのです。
温度制御の頭脳:コントロールユニット
近年に使用されているオートエアコンは、コンピューターで温度を制御し、快適な車内の環境を作り出します。そこには各種センサーとモーターが、コンピューターによって制御されています。これらをコントロールユニットといいます。
例えば、エアコンの温度調整を自動で行うには、各種温度センサーによって車内や車外の状況を把握しています。そのセンサーの情報を元に、モーターを制御して、温かい空気と冷たい空気をミックスし、適正な温度の冷気を車内に送り込んでいます。これらの作業を行うのがコントロールユニットの役割となります。
熱を運ぶガス:冷媒
人間だと、汗の水分が蒸発することで熱を奪いますが、車では冷媒を使用します。冷媒は、上記4つのサイクルを行うのに適した物質を使用しています。冷媒が役割を果たす為に必要な特性は5つです。
- 蒸発しやすく液化しやすい
- 安全性が高い
- 化学的に安定していて、変質しない
- オイルとなじみがよい
- 環境負荷が少ない
今は使用禁止:フロンガス(R12)
以前(1996年頃まで)の自動車には、フロンガスCFC-12(R12)が使用されていました。しかし、このフロンガスが地球のオゾン層の破壊を促進することが分かり、世界的にフロンガスの使用が禁止されます(モントリオール議定書)。
現在使用されている代替フロン(R134a)
フロンガスの代わりに登場したのが、代替フロンと呼ばれるHFC-134a(R134a)です。現在のカーエアコンの冷媒はこのHFC-134a(R134a)が主流となっており、ガスを補充するときも、この代替フロンを補充します。
フロンガスと代替フロンは代替不可
尚、フロンガス(R-12)が入っている車両に代替フロン(R134a)を使用することはできません。これは、使用するエアコンオイルの種類が異なるからです。しかし、R-12エアコンガスは現在製造されておりません。その為、フロンガス(R-12)を使用している昔の車両は、エアコンユニットを交換するか、R-12代替ガスを使用することになります。
焼付きを防ぐエアコンオイル:鉱物油と化学合成油
エアコンのシステム内には、各機器を作動するために潤滑オイルが必要となります。オイルが切れてしまうと、機器の可動部の焼き付きを起こしてしまうため、エアコンのオイルは重要な要素となります。
適合オイルは「フロンガス(R-12)」を使用しているか、「代替フロン(R134a)」を使用しているか、で異なります。フロンガスは鉱物油を使用し、代替フロンは「化学合成油」をエアコンオイルに使用しています。
フロンガス(R-12)には鉱物油
フロンガス(R-12)は塩素成分を含みます。この塩素成分は、エアコンユニット内を潤滑させる役割があります。
つまり、エアコンオイルが無くても、ある程度ユニット内を潤滑できるのです。鉱物油の潤滑性能自体は低いのですが、フロンガス(R-12)に塩素成分が含まれていること、また、鉱物油はフロンガス(R-12)ガスに溶け込む為、エアコンユニット内を循環し、潤滑することができます。
代替フロン(R134a)には化学合成油
しかし、代替フロン(R134a)ガスは塩素成分を含まないため、潤滑性能はエアコンオイルで全てまかなう必要があります。また、鉱物油は代替フロンのガス中に溶けないため、エアコンユニット内をオイルが循環することができません。その為、代替フロンは、ガス中に溶ける化学合成油を使用して、エアコンユニット内の潤滑を保っています。
このように、R-12とR134aエアコンガスは、使用するエアコンオイルの種類が違うため、ガスを混ぜて使用することはできません。
旧車で「代替フロン」を使用できる「レトロキット」
世界的にフロンガス(R-12)の製造が禁止された為、ガスの入手が困難となりました。また、フロンガス(R-12)使用そのものも環境負荷を考慮すると良くないため、エアコンユニットそのものを代替フロン(R134a)対応に変更するキットが登場しています。それがレトロキットです。このレトロキットは、車両に付いているエアコンユニットそのものを「丸ごと」交換します。交換後は、代替フロン(R134a)を使用することができます。
従来型フロンと異なる「R-12代替ガス」
フロンガス(R-12)が入っている古い車両にガスを補充する場合、今までは、R-12ガスを使用するか、上述「レトロキット」を取り付けて、代替フロン(R-134a)を使用するしかありませんでした。しかし、レトロキットは取替費用が高くつきます。
そこで「R-12代替ガス」というのが登場しました。
R-12代替えガスというのは、フロンガス(R-12)用のエアコンユニットを使用したまま、つまり「レトロキット」を購入せずに、ガスの補充が行える「代替えガス」となります。
このR-12代替ガスは、基本的には代替フロン(R134a)です。しかし、ガスの中に鉱物油が溶ける成分「イソブタン」を混入させているため、フロンガス(R-12)のエアコンユニットを使用したまま、代替フロン(R134a)を使用できるようになるのです。