イグニッションコイルの仕組みと故障診断方法の解説
現代のエンジンは、ディストリビューター式の点火システムは現代では採用されておらず、きめ細かい制御が出来るダイレクトイグニッション式の点火システムの搭載が必須とも言えます。
ダイレクトイグニッション式のイグニッションコイルはイグナイタを内蔵しています。イグニッションコイル内で発生させた高電圧をスパークプラグに送りますが、イグニッションコイルが故障してエンジン不調が起こるケースが多くあります。
今回の記事では、ダイレクトイグニッション式イグニッションコイルの基本的な仕組みと故障診断方法の解説を行います。
こちらの記事は専門性高く、プロのメカニック向けに記載しています。
「エンジンの調子がおかしい」「イグニッションコイルに異常があるかも」と思われている方は、是非こちらの記事をご覧ください!
イグニッションコイルの故障とは?役割とエンジン不調の原因について解説!
イグニッションコイルはエンジンの点火を担う部品でエンジンを正常に動かすため必須です。故障時にはアクセル踏んでも加速しなかったり、ガタガタとエンジン不調に繋がります。今回の記事ではイグニッションコイルの故障症状と修理費用を解説します。
https://seibii.co.jp/blog/contents/about_ignition_coil_and_summary/

イグニッションコイルの仕組み
高電圧を発生する原理として、コイルの「相互誘導作用」と「自己誘導作用」の2つを利用しています。
鉄心に巻いたコイルに電気を流すと、磁力が発生します。すると、コイルの巻数を変えた別のコイルに、巻数に比例した電気が誘起されます。これが「相互誘導作用」です。
また、磁力は変化を嫌います。この変化を嫌う性質を利用し電気を発生させるのが「自己誘導作用」です。
相互誘導作用
相互誘導作用は、2つのコイルが一つの鉄心に巻いてある時、一方に電気を流すと、もう一方のコイルに電気が流れる仕組みのことです。
2つのコイルの巻数を変えることで発生する電圧が変化するのが特徴です。
図1のように1つの鉄心にコイルAとコイルBを巻きます。
<図1>
一方のコイルAに交流電気を流した時、コイルBには、2つのコイルの巻数に比例した電圧が誘起されます。
このように、2つのコイルの一方に流す電流の大きさや方向を変え、鉄心の磁化される強さや方向に変化が与えられると、他方のコイルにはコイルの巻数に比例した電気が誘起されます。
この現象がコイルの「相互誘導作用」です。
自己誘導作用
図2上段のように、鉄心に巻いたコイルに電流を流すと、鉄心は磁化します。しかし、鉄心が磁化される瞬間に、コイルには磁化を妨げようとする逆方向の電力が誘起されます。
逆に、流れている電気を止めようとスイッチを遮断すると、消滅する磁力を持続させようとする方向に、電力が誘起されます。
<図2>
このように、電流が流れたり、遮断されたりして、コイルの磁力線が増加または減少すると、その変化を妨げる方向に電流を流そうとする電圧が誘起されます。
この現象がコイルの「自己誘導作用」です。
ダイレクトイグニッションシステムの構造
ダイレクトイグニッションシステムは以下の部品構成です。
- 5V定電圧電源
- マイコン
- 駆動回路
- 1次コイル
- 2次コイル
- 点火確認信号発生回路
<図3>
定電圧電源
5Vの安定した電源を供給する
マイコン
駆動回路に点火指示信号を出すことで、点火時期を制御している。また、点火確認信号の電圧を監視し、1次コイルに電気が流れているか確認している。
駆動回路
マイコンからの信号によって、トランジスタ1をON-OFFする
1次コイル
1次電流を流すコイル
2次コイル
1次電流の遮断により高電圧を発生するコイル
点火確認信号発生回路
1次コイルに電流が流れたか確認する回路。トランジスタ2をON-OFFする
イグニッションコイルの作動
<図4>
1次コイル作動
イグニッションコイル内の1次コイルはECUのマイコンによって制御されます。
マイコンの点火信号によって、イグニッションコイル内の駆動回路が作動し、トランジスタ1のベース電流を制御します。
<図5>
駆動回路によってトランジスタ1にベース電流を流すと、トランジスタ1のコレクタ電流が流れ、1次コイルに電流が流れる仕組みです。
2次コイル
<図6>
マイコンからの点火指示信号が遮断されると、2次コイルに電圧が発生します。
ここで発生した電圧はスパークプラグへと流れ、火花となって放電します。
点火確認信号
エンジンの失火というのは、避けなければいけない不具合の1つです。
失火すると、触媒の加熱から車両火災に発展する危険性があるからです。
しかし、スパークプラグに火花が飛んだかをECUが直接確認する方法はありません。そのために、ECUは1次コイルの電気の流れを見て点火しているか判断します。
<図7>
マイコンからB点を通る配線によって1次コイルに電気が流れたか確認します。マイコンからは5V電圧をトランジスタ2のコレクタに掛けています。1次コイルに電気が流れると、点火確認信号発生回路はトランジスタ2にベース電流を流してトランジスタ2のコレクタ電流を流します。
図のB点の電圧を測ると、1次コイルに電気が流れているときには0Vとなります。1次コイルに電気が流れていない時は5Vを表示します。従って、マイコンは5Vから0Vに電圧が変化すると点火していると判断します。
図のA点とB点をオシロスコープで確認すると以下のようになります。
<図8>
点火指示信号の5Vが立ち上がると点火確認信号の電圧が0Vになっているのが分かります。点確認信号は一定の周期で0Vに落ちていますが、これは各気筒のアース配線が繋がっているためです。
<図9>
そのため、点火確認信号に不具合が発生すると全てのイグニッションコイルに影響を与えます。
エンジン点火系の故障探求
故障診断機を繋げて、故障コードを点検します。
イグニッション系統やイグナイタ系統などの名称で故障コードが入力されます。
どんな故障コードが、いくつあるかによって点検場所と点検方法が変わります。
故障コードが1つの場合
<図10>
- スパークプラグ
- イグニッションコイル本体
- イグニッションコイル電源・アース点検
- ECU~イグニッションコイル間ワイヤーハーネス点検
- ECU点火指示信号確認
スパークプラグ点検
スパークプラグの火花が飛んでいるか確認をする点検が火花点検です。
スパークプラグを取り外し、火花が飛んでいるか目視点検をします。
火花点検を行う際には、インジェクターのコネクターは全て外します。
安全作業を徹底して行いましょう。
イグニッションコイル本体
不具合がある気筒のイグニッションコイルと、不具合が無い気筒のイグニッションコイルを入れ替えて、パワーバランス点検を行います。
交換したイグニッションコイルと共に、不具合が出る気筒が変われば、そのイグニッションコイルに不具合があると判断出来ます。
イグニッションコイル電源・アース点検
イグニッションコイルのコネクターに来ている12Vの電源を調べます。
IGONにした時に12V来ていたら正常です。
また、アースも点検します。1次電流のアースとボディーアースで導通点検を行い、導通があればアース回路も正常と判断出来ます。
電源、アースの各配線の位置は修理書を見て調べてください。
ECU~イグニッションコイル間ワイヤーハーネス点検
ECUとイグニッションコイル間の点火指示信号ワイヤーハーネスの点検を行います。
導通点検を行う場合には、まずECUのコネクターを切り離します。ECUコネクターを切り離さずワイヤーハーネスの導通点検を行うと、導通点検時に流すサーキットテスターの電流でECUが壊れる可能性があります。
ECUのコネクターを切り離した上で点検を行いましょう!
ECU点火指示信号確認
最後に点火確認信号の点検を行います。
オシロスコープを用意し、点火指示信号の端子にオシロスコープを繋げます。
この時、CH1は不具合が発生している気筒の点火指示信号に繋げます。CH2は点火確認信号のアースにつなげて2つのチャンネルで点検を行います。
オシロスコープは下記でセットすると見やすいかと思います。
- 2V/DIV
- 10ms/DIV
複数のイグニッション系統の故障コードが入力する場合
<図11>
- 点火確認信号系統
複数のイグニッション系統の故障コードが入力されている場合、考えられるのは点火確認信号となります。
まず点検するのはECU側の点火確認信号の電圧です。
0Vの場合
ECUの点火確認信号が0Vの場合、イグニッションコイルのコネクターを1番気筒から順番に外します。順番にコネクターを外していき、ECUの点火確認信号電圧が5Vに戻ったら、そのイグニッションコイル内でのショートによる不良と判断出来ます。
全てのイグニッションコイルを外しても、点火確認信号の電圧が0Vのままなら、ECUのコネクターを取り外して電圧を点検します。ECUの点火確認信号の端子電圧が5Vならワイヤーハーネスのショート、0VならECUの内部不良です。
5Vの場合
ECUの点火確認信号電圧が5Vある場合、ECU~イグニッションコイル間の配線の断線となります。故障コードによってどこから断線しているのか判断して点検します。全てのシリンダーの故障コードが入力されている場合はECUに近いところ、1番、2番シリンダーが入力されている場合は1番2番シリンダーの分岐点以降の配線の断線を確認します。
当然ですが、導通点検を行う際にはECUのコネクターは切り離して作業しましょう。
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