自動車整備業界は、9万1,849もの工場、54万4,307人もの人たちが働いている大きく重要な産業です。自動車整備業界について理解しようと思うと、2020年4月に施行された特定整備(分解整備、電子制御装置整備)、指定工場(民間車検場)、認定工場など、日常生活では馴染みの薄い単語を理解する必要が出てきます。この記事では、最新統計(2023年)の工場数、従事者数、整備士平均年齢の観点から自動車整備産業の外観を整理していきます。
目次
イメージが沸かない自動車整備産業
「自動車整備」と言われて、クリアにイメージが湧く人がどれだけいるでしょうか?地味?斜陽?ニッチ?あまりポジティブなイメージはないかもしれません。
車は、1-2トンもある鉄の塊です。その鉄の塊が、時速60-80kmといった速度で走っているわけですから、整備が必要であることは論を待ちません。そして、日本には、約8,000万台もの車が走っており、その車の安全を担保しているのが自動車整備業界です。
自動車整備業界は、9万1,849の認証工場(従来の分解整備前提)、54万4,307人の人たちが働いている大きく重要な産業です。これから、その外観を最新統計(2023年)をもとに整理していきます。
なお、自動車整備産業の市場規模や収益に関しては、こちらの記事をご参照ください。
自動車整備業界の基本 - 市場規模と収益性
自動車整備工場の数と他業種比較
- 車の整備工場数:91,849工場
これが、日本の整備工場の数です(2023年自動車分解整備業実態調査結果)。
他産業と比較して、整備工場の数の多さを相対比較してみましょう。
- ラーメン店 : 3万2千軒
- コンビニ : 5万4千店舗
- 歯医者 : 6万8千軒
- 整備工場 : 91,849工場
多くの方にとって、驚きの数値では無いでしょうか。意識して街を歩いてみると、東京都心であっても実は整備工場は近くに複数あることに気づきます。
※1)本記事での工場数は、従来の分解整備(後述)を前提にしており、電子制御装置整備を加えた特定整備事業者は考慮していません。
※2)鈑金・塗装事業者、タイヤ専業事業者等は本記事の工場数には含みません。
分類1. 認証工場・指定工場・特定整備
自動車の整備工場を正確に定義すると、「分解整備を行うことができる工場」と呼べます。「分解整備」を事業として行う場合は、地方運輸局長の「認証」を受けなければなりません。この「認証」を受けた工場を「認証工場」と言います。この認証工場に鈑金・塗装事業者やタイヤ事業者は含みません。
分解整備の定義:道路運送車両法第49条第2項、同施行規則第3条(2019年5月改定前)
分解整備とは「原動機、動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置、連結装置を取り外して行う自動車の整備又は改造のこと」と法律で定義されています。ひたらく言えば、車の「動く」「止まる」「曲がる」といった重要な動作に関わる基幹部品を分解して実施する整備、のことです。
「分解整備」に「電子制御装置整備」を加えた特定整備に拡大変更(2020年4月)
車の高度化に伴い、従来の分解整備では車の安全を担保する為に不十分となりました。そこで、従来の「分解整備」に「電子制御装置整備」を加えた特定整備制度が2020年4月から施行されました。同改正により「電子制御装置整備」を実施する為には、分解整備とは「別」の認証を受ける必要があります。従い、自動車整備事業者は「分解整備のみ」を行える従来同様の事業者と、「分解整備と電子制御装置整備の両方(=特定整備全て)」を行える事業者の2つに別れることになります。
詳しくは
特定整備 - 内容と事業者への影響
「特定整備制度」が2019年5月に公布、2020年4月に施行されました。これにより、分解整備の【範囲が拡大】し【対象装置の追加】がなされ、その名称を「特定整備」と改めることとなりました。「特定整備」の許可を得た事業者のみ、特定整備で定義される作業を実施することができます。この点は従来の分解整備と変わりません。この特定整備制度、消費者はもとより、自動車整備業を営む方々や自動車整備士に大きな変化を及ぼします。その一方で、新制度への過渡期でもあり、特定整備に関する情報が理解し難いところがあります。そこで、特定整備に関する内容、背景、私たち事業者への影響を纏めました。
https://seibii.co.jp/blog/contents/tokutei-seibi/

特定整備の定義:道路運送車両法第49条第2項、同施行規則第3条(2019年5月改定後)
原動機、動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置、連結装置又は自動運行装置(第四十一条第二項に規定する自動運行装置をいう。)を取り外して行う自動車の整備又は改造その他のこれらの装置の作動に影響を及ぼすおそれがある整備又は改造であつて国土交通省令(※)で定めるもの
「電子制御装置整備」を行える認証事業者数は未公表
2020年6月時点で電子制御装置整備を行える整備事業者の数は公表されていません。制度そのものが2020年4月に開始されたばかりの為です。
指定工場:30,090工場(2023年)
自動車整備工場(認証事業場数)のうち、車検を通すことを許可された整備工場(認定事業場)を、「指定工場」と呼びます。指定工場は、「民間車検場」とも呼ばれます。この民間車検場は、3万90工場(2023年)あります。認証工場のうち、設備、技術、組織等が一定の基準に適合している工場に対して、申請により、地方運輸局長が指定します。
種類別の看板
国から認可を受けている整備事業者は3種類あることを説明しました。各々、行政からの許可・認定を受ける必要があり、工場に看板を掲げなければいけません。
- 認証工場(分解整備のみ可能):黄色
- 指定工場:青
- 認証工場(特定整備が可能):若草色(薄緑)
車の整備・修理事業者数のまとめ
まとめると、こうなります。
- 認定工場 : 91,849工場(「分解整備」を行うことができる整備工場)
- 指定工場 : 30,090事業場(民間車検場)
- 鈑金・塗装工場数 : 不明(工場の認可を受ける必要がないことから、これらの数に関する公式な統計情報はありません)
認証の「有・無」と「違法・適法」「技術力」は無関係
ところで認証の有無や違いは、技術的な優劣とは関係ありません。設備の問題で「車検を通すことができる工場」か「車検を通すことができない工場」か、という違いになります。また、「認証が無い」整備・修理事業者であっても、それは適法であり何の問題もありません。認証はあくまで、対応可能な整備メニューの幅を制限するものだからです。
分類2. 専業・兼業・ディーラー・自家
認証を有する自動車整備工場は、以下4つの種類に分けることができます。
- 専 業 : 自動車整備業の売上高が総売上高の50%をこえる事業場。モータスとも呼ばれます。
- 兼 業 : 「自動車・部品用品・保険・石油販売等」の売上高が50%以上を占める事業場。ディーラー除く。カー用品店やガソリンスタンドなど。
- ディーラー : 自動車製造会社又は国内一手卸売販売会社と特約販売店契約を結んでいる企業の事業場。
- 自 家 : 主として自企業が保有する車両の整備を行っている事業場。タクシー会社が保有している整備工場など。
専業、兼業、ディーラー、自家の割合(2023年)
91,849もの工場の内訳を見てみると、以下の通り、専業整備工場が約60%を占めていることが分かります。
- 専業 : 5万6,620工場(61%)
- 兼業 : 1万5,554工場(17%)
- ディーラー : 1万6,173工場(18%)
- 自家 : 3,502工場(4%)
従業員が10人以下の所謂「家族企業」が整備工場(認証工場)の約8割りを占める、といったデータもあります。(ソース)
整備工場数と推移(2005-2023年)
統計データを入手可能な2005年から最新2022年のデータを基に、整備工場数の推移やそこから読み取れる事象を整理していきます。
ピークは2015年の9万2,160工場
全国の整備工場数は、2015年まで毎年微増を続けていました。2015年の92,160工場を天井に、現在は微減傾向に転換しています。
「過去15年」「過去10年」に期間を分け、整備工場の種類別工場数推移を紐解いていきます。過去15年の傾向と、過去10年の傾向で、異なる絵が見えてきます。
過去10年の年平均成長率(2014-2023)
- 全体 : 年率0.03%減少
- 専業整備工場 : 年率0.08%減少
- 兼業整備工場 : 年率0.08%減少
- ディーラー整備工場 : 変化なし
- 自家整備工場 : 年率0.70%減少
独立系の整備工場:過当競争と後継者不足で減少
いわゆる街の整備工場・モータスは、もともと過当競争であったことに加え、後継者不足を理由に廃業する整備工場が増えています。
- 2011年(ピーク):5万7,266工場
- 2023年(最新):5万6,620工場
ディーラー・カー用品販売の整備業への進出が読み取れる
車の販売が主軸の「ディーラー」及び、オートバックス等カー用品店などの「兼業整備工場」に分類される整備工場は、その数を増やしていることが分かります。
近年、ディーラーやオートバックス等のカー用品店、はたまたガソリンスタンドなどは、整備業への進出を加速しています。例えばディーラーであれば、車両販売での利益率を落とし、その後の整備売上で回収するといったビジネスモデルに少しづつ変化しています。カー用品店販売大手のオートバックスは、同社中期経営計画(2019年最新)において、整備事業の強化を掲げています。
つまり、定性面での変化が数値にも表れていると言えます。
ディーラー整備工場
- 2013年:1万6,033工場
- 2023年(最新):1万6,173工場
兼業整備工場
- 2013年:1万5,294工場
- 2023年(最新):1万5,554工場
自動車整備工場・業界で働く人の人数推移
整備工場(行政から認定を受けた認定工場)で働く総従業員数とその内の自動車整備士資格(国家資格)保有車数の最新数値(2023年)は以下の通りです。
- 総従業員数 : 54万4,307人
- 内)整備士資格保有者数 : 33万1,255人
整備士資格保有者数は不明
統計が取られている整備士資格保有車数は、あくまで認証工場に現役で勤務する整備士の数です。従い、資格を有しているも、鈑金・塗装業やその他認証工場以外の職場で働かれている整備士の数は含まれていません。
整備士数は年率0.37%減少中
整備産業界では「整備士の数が足りない」といった課題があります。実際に整備士の数は減少しているのでしょうか?
- 2011年(ピーク):34万7,276人
- 2023年(最新) : 33万1,255人
年率換算すると毎年0.37%減少していることが分かりました。
整備士の平均年齢と推移
整備士の平均年齢は、専業・兼業・ディーラーで大きく異なります。2022年の最新の統計によると、業態別の整備士平均年齢は以下の通りとなりました。
- 専業整備工場 : 52.7才
- 兼業整備工場 : 48.5才
- ディーラー整備工場 : 37.0才
ディーラーは若い人が多く、街の整備工場は比較的年齢が上になる、というデータです。これは、肌感覚と会うのではないでしょうか。
ちなみに、日本人の平均年齢は46才です(東京都に絞ると44.27才)。ですので、世の中一般的に、整備士の平均年齢が上とは言えないでしょう。ただし、街の整備工場(独立系専業)に限って言えば、高齢化が平均以上に進んでいる一方で、ディーラーで働く整備士の平均年齢は35.5才とIT業界のように若いことが分かります。
ディーラー整備士は離職率が高く営業・フロントへの配置換えがある
ディーラーと専業整備工場では、整備士の年齢差が約15才あります。ディーラーの整備士が若いのには2つ理由が考えられます。
- ディーラー整備士の離職率は大変高い
- ディーラー整備士は10年目以降で営業・フロント業務に配置転換されることが多い
平均年齢推移:年平均上昇率
統計データーを入手可能な2005年から最新の2023年の平均年齢の推移を具グラフにしてみました。これは整備業に限った話では無いですが、いずれも毎年高齢化が進んでいることが分かります。
平均年齢年間上昇率
整備士の給与の低さがしばしば話題に上がります。公式統計から読み解ける実態は、【専業整備工場を除き】、毎年賃上げされています。
- 専業整備工場 : 年率0.86%増加、378万円
- 兼業整備工場 : 年率1.17%増加、406万円
- ディーラー整備工場 : 年率1.35%増加、490万円
参考リンク集
本記事作成にあたり、参照したデータのリストは以下の通りとなっております。