特定整備 - 内容と事業者への影響
2020.01.25

はじめに - 何の為の法的制限?

1トン近くの金属の塊が時速60kmで走っている。それが車です。その安全性を担保する為に、車検や法定点検といった車の整備・修理が、法律で義務付けられています。

整備・修理といっても、数多のメニューが存在します。その中でも以下2点に該当する作業については、法的な制限が必要と言えます(国土交通省)。

  1. 自動車の安全・環境性能に大きな影響を及ぼす作業
  2. 自動車の構造・装置に関する高度な知識・技術と整備のための設備・機器が必要である作業

上記1、2に該当する具体的な作業は何なのか。そしてその作業を実施する為の要件は何なのか。それを定めるのが法律です。そして法律は、時代と共にアップデートされる必要があります。

車の進化により変わる整備・修理内容

車は日々進化しています。それに合わせて、整備・修理内容も変化します。この車の進化と整備内容の変化が、今回の記事で解説する新たな法的制限「特定整備」が定められた根源的な理由となります。

特定整備とは - 先進安全自動車との関係

特定整備とはどんな作業を指すのでしょうか。端的に言えば、普及が広まる先進安全自動車に対応した制度です。

特定整備 = 分解整備 + 電子制御整備

特定整備とは、「従来からの分解整備」に「電子制御装置整備」を加えたものになります。図示すると以下の形になります。

特定整備 = 分解整備 + 電子制御装置整備

分解整備のおさらい

釈迦に説法の読者も多いと思いますが、「原動機や動力伝達装置などの7項目」に関わる整備を「分解整備」として分類します。より具体的には、車のエンジンやブレーキなど重要な装置を取り外して行う整備又は改造とイメージしてください。分解整備は、国から認証を受けた事業者でなければ実施できません。

【番外】 「認証工場」と「指定工場」

2019年現在、「分解整備」を行えるのは、国から認証を受けた工場のみで、工場は2つに分類されます。

  1. 認証工場
  2. 指定工場(民間車検場)

この2つの違いは「車検」を通せるか否かの違いのみで、両者とも「分解整備」作業を行うことはできます。

この記事で解説する「電子制御装置整備」が加わったことにより、整備事業者は「(従来からの)分解整備のみを行う事業者」と「分解整備と電子制御装置整備の2つを行う事業者」の2つのパターンに別れます。

(詳しくは

自動車整備業界の基本 - 工場数と従事者

自動車整備業界は、9万2千もの工場、54万人もの人たちが働いている大きく重要な産業です。自動車整備業界について理解しようと思うと、2020年4月に施行された特定整備(分解整備、電子制御装置整備)、指定工場(民間車検場)、認定工場など、日常生活では馴染みの薄い単語を理解する必要が出てきます。この記事では、最新統計(2019年)の工場数、従事者数、整備士平均年齢の観点から自動車整備産業の外観を整理していきます。

https://seibii.co.jp/blog/contents/car_maintenance_industry_overview/

先進安全自動車と電子制御整備

従来の車は、「分解整備」の範囲内で、国が定める保安基準の適合性を担保するには十分でした。

ところが、車が進化するにつれ、「分解整備」で定める範囲では、安全性を十分に担保できなくなり、最新の車に合わせて「電子制御装置整備」が加えられたのです。

ASV(先進安全自動車)

近年販売される車には「衝突被害軽減ブレーキ」「ふらつき注意喚起装置」「車線逸脱警報装置」「車両横滑り時制動力・駆動力制御装置」「ACC(定速走行・車間距離制御装置)」「ペダル踏み間違い時加速制御装置」など、ドライバーの安全運転を支援するシステムが搭載されています。

これらの装備を持つ車を先進安全自動車、または、Advanced Safety Vehicle(略称ASV)と呼びます。

電子制御整備

電子制御整備作業とは、先進安全自動車に設置されている以下の装置を整備、改造、または調整する作業を指します。

  1. 自動運行装置
  2. 衝突被害軽減制御装置
  3. 自動命令形操舵装置

日本語が難しいですね。具体的には以下の装置を指します。

  1. 単眼・複眼カメラ
  2. ミリ波レーダー
  3. 赤外線レーダー

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これらを取り外したり交換したり、調整する作業は新たに定められた「電子制御整備」に該当、すなわち、「特定整備」作業となります。

エーミング作業

先進安全技術に使用されるカメラやミリ波レーダー、超音波センサー、赤外線センサーといった検知デバイスが正しく作動するために、カメラやレーダーを校正(調整)する作業を「エーミング」と呼びます。

静的エーミングと動的エーミング

上記調整作業の中で、車を止めた状態で実施する「静的エーミング」は特定整備に入りますが、車を動かしながら調整する「動的エーミング」は特定整備作業にはなりません。「静的エーミング」と「動的エーミング」の両方が必要な作業の場合は特定整備の枠内となるので、注意が必要です。
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特定整備の必要性を深掘り

特定整備制度は、車の高度化に併せて、既存の制限 - 分解整備を拡大させた制度であることが分かりました。もう少し深掘りしていきましょう。

急速に広がる車両の先進化

新型車への先進技術装着率(2019年統計)を見てみましょう。

  • 自動ブレーキ:77%
  • ペダルの踏み間違い加速特性装置:65%
  • レーンキープアシスト:20%
  • アダプティブクルーズコントール:47%

多くの車に先進安全機能が装着されていることが分かります。

従来の法律の問題点:誰でも修理可能だった

「特定整備制度」が施行された2020年4月以前は、これらの先進安全機能がブレーキやハンドル操作に関わる、即ち、車の安全性に関わる重要な装置にも関わらず、上述の「分解整備」に当たらないことから、「誰でも」整備・修理が出来てしまいました。問題ですね。

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分解しない整備 - エーミング等

既存の分解整備は「取り外し」を伴う作業を想定しています。一方、カメラやレーダーの調整は、必ずしも取り外し作業を伴わず、エーミングの調整作業となる為「分解整備に該当しない」というのが「法改正を行う前」の判断でした。

一見屁理屈のように聞こえますが、法律の運用とはこのようなものです。

そこで、分解整備の範囲を【取り外しを伴わなくても装置の作動に影響を及ぼす整備又は改造等】に変更し【自動運行装置」の項目を追加することで、その名称を「特定整備」に改めたのが今回の法改正になります。

新認証基準と整備事業者(認証工場・指定工場)への影響

当然ながら、専門的な知識・技術を持たいない人が作業した場合に、作業後の保安基準の適合性が担保できなくなる恐れがあります。従い、特定整備作業を行うために、新たに定められる認証資格を得る必要があります。また、現在「認証工場」「指定工場」の資格を有する整備工場に関しては、新たに追加された電子制御装置の要件を満たすことで、特定整備工場の認証を得ることができます。前述の通り、整備事業者は「(従来からの)分解整備のみを行う事業者」と「分解整備と電子制御装置整備の2つを行う事業者」の2つのパターンに別れることになります。

電子制御装置整備の認証資格

電子制御装置の作業は、従来の認証・指定工場とは異なる1)機器の使用や知識・技能、2)人材が必要となります。そこで、特定整備の認証資格を得るために「工場」「機器」「メカニック」の3つの観点で新たな基準を設けています。

認証要件1. 工場の広さ

エーミングに必要な広さを有する作業場の確保が必要となります。対象とする車両により、広さの要件が異なります。

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例えば、3ナンバーの普通乗用車を例にとってみると、工場の広さは6m×2.5m、このうち屋内の広さが3m×2.5m必要となります。という事は3mは屋外でも大丈夫という事です。

認証要件2. 機器・設備

従来の分解整備を行う(認証資格を得る)ための機器と、特定整備を行うための機器には大きな違いがあります。
認証資格を得るためにはエンジンリフトやコンプレッションゲージなど、車のエンジンやブレーキ修理に必要な工具を揃える必要があります。しかし、特定整備の範囲に入る電子制御装置の整備には、少なくとも以下の機器を揃える必要があります。

  • OBDスキャンツール
  • 水平器
  • エーミング用器具

問題は、現時点で全ての車種を1つでカバーできる機器・設備が存在せず、全車種をカバーできないことです。従い、改正案では、「1車種」の作業が出来る機器の導入があれば十分とされており、エーミング作業に必要な「ターゲット」や「専用器具」については必須ではなく、【機器の入手方法の記載】が求められるようです。

【機器の入手方法の記載】とはどういうことかというと、エーミング作業においてはメーカーや車種によって必要な器具が変わるため、その全てを揃えるのは物理的にも金額的にも無理があります。ですので、専用器具が必要となった際に、どのようにそれらを手に入れ、作業が出来るかを記載する(例えば「リース」)という事です。

認証要件3. メカニックの人数と資格

電子制御装置の認証を取得するためには、作業を行うメカニックにも基準があります。整備士とメカニックの違いに関し、ここでは以下の通り定義します。

  • 整備士 : 国家資格を有するメカニック
  • メカニック : 整備士 + 整備士資格を有さないが整備作業を行う人
人数要件

まず工場に必要なメカニックの人数は「2人以上」となっています。

資格要件

内1人を整備主任者として専任しますが、その主任者の条件は以下のどちらかです。

  • 1級自動車整備士 もしくは
  • 1級(2輪整備士)、2級自動車整備士、電気装置整備士、車体整備士が国土交通省主催の講習を受講した整備士

最低1人、上記条件に当てはまる整備士がいれば、他は整備士資格を有さないメカニックでもOKということになります。

設備の共有

エーミング作業はメーカーや車種によって必要な機器が変わってくるため、整備工場がすべての機器を用意し作業を行うことは現実的ではありません。

また、メカニックに知識とスキルがあっても、作業場が確保できないために電子制御装置を整備するための認証が得られないのはもったいないことです。

そこで、今回の制度では、電子制御装置を整備するための作業場の共有を認めています。
電子制御装置の認証を申請する際に、共有の施設を利用し申請を行うことができます。
作業場の共有パターンは以下の2つになります。

  1. 特定整備工場の電子制御装置設備を他の業者と共有するケース
  2. 複数の特定整備工場が1つの電子制御装置を共有するケース

1のケースは、すでに特定整備の認証設備を持っている工場の設備を借りて認証資格が取れるということ。
2は複数の業者が1つの(認証の基準をクリアしている)場所を共有して認証資格が得られるということですね。
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「電子制御装置の整備設備の共有可能」は良いアイディア

ところで、個人的には、「電子制御装置の設備の共有を認める」今回の新制度は大変良いと思っています。設備は資金がかかる上に、非可動時間は無駄となってしまいますからね。

既存の分解整備に対しても、設備の共有を認めてもらえれば、すご~く良いなぁと思います。

ガラス施工業者への影響

電子制御装置はフロントガラスやバンパーに付いています。その為、ガラス交換を行っている施工業者は、「特定整備」の「電子制御装置の修理作業を行うために認証資格」を得なくては作業を行うことができません。

しかし、ガラス施工業者は、1人で事業をやっている方や、整備士資格が無い方も沢山いらっしゃいます。

それでは、いままでは通りの仕事が出来なくなってしまうという事で、「構内外注」の取り扱いが決められています。

構内外注の要件を満たしていれば、ガラス業者も今まで通り作業を行うことが出来るようです。

構内外注の要件

特定整備の認証を受けている工場がガラス交換を外注業者に頼む場合、以下の2つの条件に合っていれば、ガラス業者も電子制御装置付きのガラス交換作業を行うことができます。

  1. 特定整備工場とガラス業者が外注契約を締結する
  2. 作業に該当する電子制御装置の整備責任は特定整備工場が負う。また、特定整備記録簿の作成も行う

自動車メーカーの情報提供義務

自動車メーカーには、特定整備を行う事業者に対し必要な技術情報の提供を義務付ける規定も追加されています。当然といえば当然なのですが、現状、独立系の整備業者には、必ずしもメーカーから技術情報が提供される訳ではないので、法律で義務付けしてくれるのは助かりますね。

電子制御装置整備の対象車両

電子制御装置整備の対象車両は国土交通省 - 電子制御装置整備の対象車両に一覧が記載されています。

時間軸の整理:施行日と経過措置

特定整備に対応するためには、人員確保や整備購入など、時間と費用を要します。従い、「いつから」実施され「経過措置が有るのか」は、私たち事業者にとって重要です。時間軸と経過措置を整理していきましょう。

2019年(令和元年)5月

  • 特定整備制度の公布

2020年(令和2年)4月

電子制御装置整備(以下作業)を行う場合、認証の取得と当該作業の記録簿への記載が必要となる。

  • スキャンツールを繋いでのエーミング
  • カメラ、レーダーの取り外し・取り付け角度の変更
  • カメラ、レーダー等が取り付けられている車体全部(バンパー、グリル)、窓ガラスの脱着

2024年開始予定:OBD車検

OBDとは電子的に車の状態・異常を診断・記録する車載式故障診断装置のことで、On Board Diagnosticsの略です。政府は、2021年以降販売の新車を対象に、2024年から、OBDを活用して車の電子機能を検査することを義務付けた「OBD車検」の導入を目指しています。特定整備(電子制御装置)の実施が必要となる時代がすぐそこまでやってきているということです。

このOBD車検、自動ブレーキなどの電子制御装置に関わります。電子制御装置が保安上重要な部品であるにも関わらず、車検時に検査を行わないのはおかしいよね、と言うことで、スキャンツールを利用したOBD車検が導入さる方針です。

OBD車検に伴って、やはり、国からメーカーの方に情報の開示を求めています。これも、国はきちんとメーカーに情報開示を求めているので良いことですね。
(ただし、その情報が整備振興会で止まっているのは大きな問題です。詳細は

重要性高まるFAINES(ファイネス):2つの問題点と提言

メカニックが整備マニュアルを確認する際にお世話になるFAINES。とても便利なシステムなのですが、現在政府が推進する事業の問題点となっています。この記事ては、FAINESの問題点2つ、解決に向けた提言について纏めました。また、マスコットキャラクターであるてんけんくんが指しているのは何なのかについても触れています。

https://seibii.co.jp/blog/contents/fainess-problem/

を参照)

電子制御装置を含む特定整備は、車検とは別に議論されています。しかし、電子制御装置は重要な保安部品の整備項目であることから、今後車検時の検査項目の1つとなってきます。それが「自動運行装置」の項目として車検の検査項目の中に入れるということを議論している最中となっています。

現在、車検を通せる指定工場の認証を有していても、特定整備を行える設備を整えなければ、車検を行うことができなくなるということです。

経過措置:4年間(2024年3月末まで)

特定整備制度は2020年4月に開始されました。しかし、2020年4月1日時点で既に特定整備の中の「電子制御装置整備」の対象作業を実施していた整備工場については、その準備期間として、「電子制御装置」の認証を受けなくても、事業を継続できる4年間の猶予期間が認められます。新たに電子制御装置の整備を開始する場合は、すぐに認証が必要です。

従い、現在の整備工場が今すぐに対応が必要かというと、そうではありません。

参考サイト・画像引用元

「特定整備制度の概要」や「特定整備事業の認証の取得方法」などについては、国土交通省のWebサイトを参考にしてください。

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(参考)
- Seibiiをご利用頂いたお客様の評価と声
- SeibiiのGoogleレビュー
- ミツモアのSeibiiレビュー
- グーピットのSeibiiレビュー