2035年、自動車の価値は「所有するモノ」から「体験を提供するサービス」へと大きく変わろうとしています。日本IBM(以下IBM)が公開した最新調査「2035年 自動車業界の将来展望」では、ソフトウェアとAIを中核とする「ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)」の普及が、業界全体に構造変革をもたらす未来が描かれています。経営層の約4人に3人が、AI搭載車の主流化とソフトウェアによる体験価値の時代を見据えるなか、自動車メーカーは従来のハード中心のモノづくりから、継続的なサービス提供を通じた“つながるビジネス”への転換を迫られています。
74%の経営層が「AI搭載のソフトウェア定義型自動車」が主流と予測
IBMの調査によると、自動車業界の経営層の74%が「2035年には自動車はAIを搭載し、ソフトウェアで定義される」と回答。
さらに75%が「体験価値こそがブランドの中核になる」と予想しています。
これまでの「販売して終わり」のビジネスモデルから、「サブスクリプションを通じて継続的に価値を提供する」モデルへのシフトが始まっています。
たとえば、アプリ経由でドライバーの好みに応じた走行モードを選択したり、クラウド経由で自動的にソフトウェアをアップデートしたりといった体験が標準化していく見通しです。
ソフトウェアとAIが車両制御そのものを進化させる
「ソフトウェアが定義する自動車(SDV)」とは、単なるナビやインフォテインメントの進化ではありません。
車両の制御システムそのものがソフトウェア化され、より安全で効率的なドライビングを実現するのです。
従来はブレーキやエアバッグなどの機能が、個別のECU(電子制御ユニット)によって制御されてきましたが、SDVではこれらが統合的に管理され、より柔軟で高度な制御が可能になります。
# 2035年、自動車の50%以上がデジタル収益に 。 ビジネスモデルの大転換
動車業界は今、大きな岐路に立たされています。それは「ハードウェア中心」の製品ビジネスから、「ソフトウェアとサービスを通じたデジタル収益中心」へのパラダイムシフトです。
サブスクリプションで“売って終わり”から“継続課金”へ
IBMの調査では、2035年には自動車メーカーの売上の50%以上が、ソフトウェアやデジタルサービスから生まれると予測されています。
これには以下のようなサービスが含まれます。
- ドライバー向けアプリケーションの月額課金
- ナビゲーションやADAS(先進運転支援システム)の機能追加
- 車内エンタメやパーソナライズ機能のアップデート
- OTA(Over The Air)によるソフトウェア更新
つまり、購入後もアップグレードや新サービスの導入によって「つながり続ける関係」が生まれるのです。
ソフトウェアとAIが“新しい製品価値”を生む
このようなビジネスモデルが可能になるのは、AIとクラウド技術の進化があるからこそです。
自動車メーカーは、ユーザーの運転傾向やライフスタイルデータをAIで解析し、その人に最適化されたサービスや機能を提供できるようになります。まさに「走るスマートデバイス」と言えるでしょう。
ジェフ・シュラゲター氏(IBM 自動車業界担当GM)も次のように語ります。
「車両の価値は、もはや初期の特徴や性能だけでなく、車両寿命全体にわたって得られる継続的な体験にシフトしています。」
#日本メーカーにも迫られる変革
日本の経営層の中でも、この変化に備えている企業は少なくありません。
調査では、日本企業の59%の開発予算が2035年までにSDVへ振り分けられる見通しとなっており、今後の競争力の源泉として、「デジタル変革」と「イノベーション創出力」を挙げる声が半数を超えました。
とはいえ、まだ多くの企業が「モノづくり」の強さに依存しているのも事実。“体験”を売る時代への転換は、想像以上に大胆な意思決定が求められます。
#まとめ
上記の考察から以下の点がポイントとみられます。
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2035年、自動車の主役は「ソフトウェア×AI」へ
74%の経営層が「AIを搭載したソフトウェア定義型自動車(SDV)」が主流になると予測。車両制御もソフトウェアで統合的に管理され、安全性と柔軟性が飛躍的に向上すると判断されます。 -
“モノ”から“コト(体験)”へ 。ブランド価値の再定義
75%が「ユーザー体験がブランドの中核になる」と回答。アプリやクラウド経由の機能追加、個人最適化されたサービスなどが標準になります、。 -
売って終わりの時代は終焉 。継続課金モデルへ転換
2035年には収益の50%以上がソフトウェアやデジタルサービス由来に。サブスク型の機能追加やOTAアップデートがビジネスの柱になるでしょう。 -
日本メーカーにも迫られる“発想の転換”
日本企業もSDV化に本腰を入れ始めているが、従来の「ハード主導文化」が変革の足かせに。
鍵となるのはデジタル変革とイノベーション創出力が求められるでしょう。